2018年3月22日木曜日

震災レポート・戦後日本編(番外編 ②)―[憂国論 ②]


『憂国論』―戦後日本の欺瞞を撃つ― 鈴木邦男×白井聡〔対談集〕――(2)
                                                     
                                                                (祥伝社新書)2017.7.10





(3章)天皇の生前退位と憲法改正(続き)


○天皇の抱く危機感とは何か


(白井)…退位の決断に至った「天皇の抱く危機感」とは、おそらく「国民の統合が深刻な危機に陥っている」…という認識だろう。

→ 一つは「沖縄の問題」であり、もう一つはそれと大いに関係する「対米従属の問題」。

…今の権力層は、「どうやって対米従属を続けるか」に躍起になっている。
…要は、「貢ぎ物を献上し続けることによって、権力を維持しようとしている」わけだが…国民の利害が眼中にないわけだから、当然ながら「国民の統合」も風前の灯となっている。

→ そして、「国民の統合の危機が最も鮮明に現れている沖縄の問題」が、天皇の念頭にあるのだろうと思う。
(ある人から内緒で聞いた話だが)…天皇陛下が毎朝、最初に読む新聞は、琉球新報だという。

(鈴木)…そうなの。ウワ~、すごいよ、それ。

(白井)…この一事だけでも、天皇御夫妻と現政権の対立が相当、深刻であることの一つの証拠になると思います。

(鈴木)…保守派の論客たちの主張でおかしいと思うのは、生前退位を認めたら、いつでも勝手に辞めることになる、と言っていること。…そんなことはないでしょう。

…それから、政治批判はダメだと言うけれども、批判されるような政治をしているわけだから、それも仕方がないことですよ。

…保守派の論客たちには、自分たちが監視しなかったらイギリス王室のようになりかねない、という傲慢な考えを持っている輩がいる。

(白井)…日本会議系というか、自称保守派の人たちの言説を聞いていると、彼らの天皇観ってどうなっているのだろう、と思うことがある。

…安倍さんに限って言えば、「ああ、この人は長州の人だな」という感じがする。

→ 明治維新で長州の人たちがやったことは、まさに「天皇の政治利用」の最たるもの。…早い話が、彼らがなぜ近代天皇制を立ち上げる必要があったかというと、それは「田舎侍が権威を獲得する、箔を付けるために宮廷を利用した」…という以外の何物でもない。
(孝明天皇が殺害されたのではないかという疑惑も含めて)それは、彼らが幕末にどんな発言をしていたかを見れば分かる。はっきり証拠として残っている話ですよ。

→ 明治になってから…自分たちこそ率先して天皇や皇室を敬っている…という体裁を作り上げていったわけだが、言ってみれば、長州の連中ほど天皇をドライに見ている者はいない。

…そう考えると、安倍さんが、あれだけ天皇陛下から暗に「おまえはダメだ、おまえのような政治家は最悪だ」というメッセージを突き付けられても、びくともしないところに、長州人のDNAを感じますね。

(鈴木)…ザイン(実在)としての天皇ではなくて、ゾルレン(当為)としての天皇を守る…と言っている人もいた。

(白井)…その場合、あるべき天皇というのは、どういう天皇ということになるのか。

(鈴木)…自分の意のままになる天皇ですよ。ぼくは許せないけれども。


○憲法論争への違和感の正体


(白井)…憲法論争…右派からすれば「押し付け憲法こそが諸悪の根源だ」ということになるし…左派からすれば「戦後憲法こそが絶対に守らなければならない砦だ」…という形で、両者が対立して来た。
…でもぼく自身は長いこと、その対立の構図そのものに、漠然たる違和感があった。

その辺の違和感が何なのか、はっきりしてきたのが、『永続敗戦論』を書いた後のことです。
→ その裏付けになったのが…矢部宏治の『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』…というオレンジ色の本。

…この本で、矢部さんはいわゆる「二重の法体系」ということを論じています。
→「日本国憲法」の上位に「日米安保体制」があり、本当の最高法規はそっちなんだと。

(鈴木)…なるほど。

(白井)…「日米安保条約並びにそれに付随する日米地位協定の規定」と、「日本国憲法で謳われている基本的人権の尊重や国民主権、平和主義の理念」が衝突・矛盾したときに…前者の「日米安保体制」が優越することが、あらかじめ決まっている。
(※日米間の様々な「密約」や、それに基づく日本の司法・行政機関の「裏マニュアル」によって…)。

→ だから、「日米安保体制」は、実質的に「憲法のような役割」を果たしている…というのが矢部さんの主張。
…この見解が事実なら、護憲も改憲も空しい…ということになる。

(鈴木)…あ、そうか。

(白井)…「憲法」が所詮、「その程度の劣位に置かれた法体系」でしかないのなら、それを守ろうが変えようが大したことじゃない。

→ 憲法にどんな立派なことが書いてあっても、その影響力は限定的にならざるを得ない。決定的な場面で空文にならざるを得ない、ということです。
…この本を読んで、ぼくは納得しました。

→ 結局、この「二重の法体系」という構造こそが、問題の本丸であって、「護憲か改憲か」というのは、やはり疑似問題だったのだ…という意を深くしたのです。


○白井聡の改憲論


(白井)…(改憲議論の)大きな問題の一つは、やはり「自衛隊の規定」。
→「事実上の軍隊」だけれども、「相当にトリッキーな解釈をして軍事力ではないと規定している」わけ。…これは、非常にわかりにくい話。

それから、ぼくがすごく嫌だなと思うのは…「明らかに憲法で軍事力を否定」しているのに、「軍事力を事実上持っている」…というような「憲法違反状態」を長年続けて、それが当たり前になってしまっていることで…
→ 国民の憲法に対する感覚がおかしくなっている…という問題。

…それは「法秩序全体の腐食であり、危機」であるし、「社会の歪み」にもつながっていく。

(※確かにこの問題は、「戦後日本」が陥ってしまった、大きなアポリア(難問)の一つか…)

→ 実際、ここ数年特に、「違憲」という言葉がものすごく軽くなったような気がする。

…当然のことだが、違憲は重大なことであり、違憲立法は許されないことです。
あるいは、行政も違憲であるようなことをしてはいけないわけだが…

「憲法9条」をめぐって「巨大な違憲状態」が長年続いてきて…「今さら小さな違憲を一つ二つ付け加えたところで、どうということはないじゃないか」…という感覚になっている。

(※唐突に出てきた安倍の「加憲案」もこの類か…?)

(鈴木)…なるほど。

(白井)…あるいは、「集団的自衛権の行使」について違憲かどうかという問題でも…行使容認派が持ち出してきた論拠で、一番強烈なものは…「解釈改憲がダメだと言うが、すでに十分、解釈改憲をやって来て、自衛隊も認めているではないか。今さら何を言っているんだ」…という理屈。
→「これをけしからんと言うのであれば、それこそ9条原理主義で自衛隊を全否定しないと筋が通らない」…と言っているわけ。
…理屈だけで見た場合には、乱暴ではあるけれども相手の痛いところを突いているロジックではある。

安倍さんの企てている改憲(日本会議的な改憲)というのは、おそらく現実的には無理だと思う(改憲に対する国民の反対や抵抗、嫌悪感が強くて、改憲を実現するにしても、彼らにとって極めて不本意な形での改憲しか、どうやらできそうにない…)。
→ むしろ、「最初のお試し改憲」の後が問題だろう…と思っている。


○新9条のロジック


(白井)…最近、「新9条派」という人たちが出て来ている。
…「憲法9条の理念は大事だし、これまで守って来たことは基本的に素晴らしいことだが…自衛隊が違憲状態にあることが、憲法秩序自体に大きな傷を負わせている。→これでは、まともな法治国家とは言えない」…と主張している。
→ だから、「現状を追認するような形で、憲法9条を変えざるを得ない」…という結論になる。

(※それなりに説得力ありか…)

…9条には1項と2項があって、1項は大して意味がない。…「国際問題の解決手段として武力行使をしない」という規定は、ある意味で世界の常識だから…(つまり、基本的に戦争は不道徳な行為であり、禁止されている)。
…ただし、相手が攻撃してくる場合にやむを得ず、「自衛手段」として武力行使をすること(※自衛権)は認められている…というロジック。

→ もちろん、このロジックを「拡大解釈」することが、現実には行われるのだが…。
…ともあれ、このロジックを述べている1項は整合的だから、そのままにしておけばいい。

問題は2項…「交戦権を否定」しているわけだが…この規定がある以上、日本はそもそも戦争ができない。
→ 従って、「交戦権を前提とする法律が、日本の法体系の中には一切ない」ということ。

→ にもかかわらず、PKO(国連平和維持活動)をどんどん拡大している…(現に南スーダンでは、派遣した自衛隊が実際に武力行使するかもしれない想定がされていた)。
…ところが、(戦闘に関わる法律が欠如しているわけだから)→ 武力行使をするときのルールが、まったくない状況に追い込まれてしまったわけ。

…例えば、戦闘で人を殺傷したときに、武力行使に正当性があったのか(武力の濫用だったのか)…を判断する基準がないことになる。
→ だから、仕方なく国内法を適用して判定せざるを得ない…というムチャクチャなことが今言われているわけ。

(※同様のことを、宮台真司もラジオなどで指摘していた…)

これは要するに、法体系が欠如しているにもかかわらず、事実上の軍事活動を強いている…ということであり、その矛盾を全部、現場の自衛隊員たちに負わせている…ということ。

→ だから今後、今のようなPKO活動を継続していくならば、新9条派の人たちが言うように、9条の問題を何とかしなければいけない…というのは、確かに正論だろうと思う。
…そこをどう考えるのか。

→ ただし、ぼく自身は、新9条派の人たちと歩調を合わせる、ということはしたくない。…「安倍政権が現実的な改憲勢力である、という状況下では、改憲を主張すべきではない」…と判断しているから。

(鈴木)…その新9条派というのはどういう人たちですか。

(白井)…学者で言うと、東京外大教授の伊勢崎賢治が代表的な人物。…政治家で言えば、そういった形での改憲が現実的だと考え、主張してきた政治家は、自民党にも野党にもたくさんいます。


○ポスト改憲のゆくえ


(鈴木)…ただ、憲法9条2項の改憲を許したら、それ以外の家族制度などもいじられるのではないか…という恐怖がある。

(白井)…そうなのです。日本会議の主張などを見ていると、9条の撤廃はもちろんのこと、彼らが本当にやりたいのは「家制度の復活」ではないかと思う。
→ とんでもないことなので、今の局面では葬るしかないと思う。
…しかも、一歩先の局面になったときの準備をしておかないといけない…とも思っています。

(鈴木)…発議されたら、やっぱり国民投票で改憲が通るだろうと思う。

(白井)…通る見込みが立たなければ、そこまで踏み切らないでしょうから。

→ ただ、とんでもない内容だとして批判が集中した「自民党の改憲草案」は、もう風前の灯で、その大部分を引っ込めざるを得ない状況になっていくと思います。

(もちろん油断はできませんが)…安倍さんとしては「二枚腰」で考えてくるだろうと思う。
→ つまり、とにかく一度、「穏健な形での改憲」をやって、その後に「本格的な改憲」をする…(もちろん、勢いに乗じて一気に全面改憲に持ち込む、という戦術もあり得るが)…ぼくが安倍さんだったら、「二枚腰の戦術」でいきますね。

(鈴木)…どんな小さなところでも改憲を実現すれば、歴史に名が残るものねえ。

(※まさにそれが安倍晋三の悲願であり野望…?)

(白井)…ぼくは、「本当の意味での憲法問題」は、おそらく「ポスト安倍の時代」に本格化するのではないか…という気がしています。


(4章)日本の行く先


○『戦争論』が右翼青年を生んだ


(鈴木)…マンガはその時々の世相を映すが、小林よしのりの『戦争論』はすごい影響力があった。→あの作品を読んで右翼になったり、ネトウヨになったりした人はいっぱいいるだろう。

(白井)…(高校生の頃)同級生でも、真面目な子が熱心に読んでいた。それはある種、必然性があったからだと思う。

…バブル経済を経て高度消費社会の時代 → 個人がいかに社会の中で生きていくべきか、公共性とは…などという「真面目な問い」が、廃れた世の中になった。
…そんなことを考えているヤツはダサい、という風潮が、80~90年代にかけて蔓延するわけです。

(鈴木)…そうですね。真面目に考え、話をしようとする学生を、「ネクラ」と言って毛嫌いした時代もあった。

(白井)…そういう中で、真面目な子ほど、「やっぱり、それはおかしい。変だ」と感じたときに、→ 国家や社会、公…といった「大文字の問題」を考える取っ掛かりを、独占的に提供したのが、小林氏のマンガだった。

(※60~70年代が「左翼」の時代だったとすれば、その反動・揺り戻しか…)


○過激なネトウヨたち


(白井)…小林よしのりがブームを巻き起こしたとき、鈴木さんは、強力な同盟者を得た…という感じでしたか。

(鈴木)…いや、「完全に先を越された」と思った。…ぼくが付き合った人たちは、みんなそう。→ 元テレビキャスターの櫻井よしこもそうだし、前田日明や佐山聡もそう…どんどん先に行ってしまった(笑)。

…昔ぼくが右翼青年だったとき、(米国系新聞の記者だった)櫻井さんに取材されたことがある。…そのときは、「右翼青年? オオ、テリブル(恐ろしい)」なんて言っていたのにねえ。→ 今はあなたのほうがテリブルだよ(爆笑)。ねえ。
…あの当時、「あたし、月給が1万円だったのよ」なんて言っていたけど、今や時給がウン万円でしょう。

(白井)…都内の神社の敷地に豪邸を建てて住んでいるらしいですね。商売人としては大したもんだ。

(鈴木)…また、そういう人たちは特定の団体に属しているわけでも、思想や宗教があるわけでもないから、却って進みやすかった、ということもあると思う。

→ 例えば、産経新聞や月刊誌の「正論」にしても…いくら過激な主張をしても右翼団体じゃないから、「保守の立場」とか言って思い切り言いたいことを言える…。

(※ポジショントークを言いっぱなしで、何の責任もとらない…)

右翼の街宣車で「核武装しろ」とか「○○を殺せ」とか、そんなひどいことを言っている者はいないでしょう。むしろ、ネトウヨですよ。

(白井)…なるほど。ネトウヨのほうが過激であると。

(鈴木)…(右翼イコール署名やお金を求める輩…というイメージがあるので、最高顧問をしていた一水会でも)…金銭面には神経を使っていた。ちょっとでも変なことをやったら、「やっぱり右翼だ」と思われてしまうから。

右翼の中には勘違いして、「自分たちは天から任じられた国士だ」と思っている人がいる。
→「国のため」ということでやっていると、人間が傲慢になるのです(金銭的にもルーズになる)。

(※旧日本軍部も同様か…)

(白井)…それこそ、小林氏が言う「国を持ち出すことで、脆弱な自己を嵩上げしてしまう」ということですねえ。

(鈴木)…左翼や市民運動の人たちもそうですよ。みんな威張っている。

(※右翼も左翼も運動している人たちは、「国や公」を持ち出すと勘違いして、傲慢になってしまう。→ このことは、思想的にも、あるいは人間心理の力学としても、意外と根の深い問題か…)


○公と国家


(白井)…それにしても、小林よしのりブームのとき、最初に反応したのが「真面目な人たち」だったことは象徴的。
→ ずっと続くと思われていた経済成長が幕を閉じ、「社会の在り方が変わる時代」の中で、「正気に戻らなければならない」と考えたのは、まことに的を射たことだったと思う。

→ 彼らが「公のことを考えよう」としたときに、生じた重要な問題は…「国家というのは、実は公の一部に過ぎない」にもかかわらず、「公=国家」であると単純化してしまったこと。

(※「社会」というのは、「国家」よりもはるかに大きな概念…という考え方も、日本ではまだまだ定着していないだろう…)

→ ある意味で、そうやって単純化したからこそ、『ゴーマニズム宣言』があれだけ爆発的に売れた…と言えるかもしれない。

(※小生も確か、1~5巻ぐらいまで買ったような記憶が…。途中で「あれ、ちょっとおかしくなってきたぞ」と感じて、買うのを止めてしまった…)

(鈴木)…イギリスに留学した人に、「イギリスでは子どもの頃から愛国心を教え込んでいるのか」と聞いたら、「まったくない」と言う。

→ イギリスの学校はむしろ、シビリアン(市民)としてどう生きるかを教え込んでいる(ex.「満員電車では体の弱い人に席を譲りましょう」といった、市民としての心得を子どもたちに教えている)という。…それを聞いて、なるほどなあと思って。

→ 愛国心なんかを子どもに教えたら、却って危ないのではないか。

(白井)…でも、政府は今まさに、そういう教育システムを作ろうとしているわけですよ。…最悪ですよ、愚劣の極みです。

→ 要するに、明治維新で骨格ができた国家システムが、そこまでして生き延びようとしているのだと思うが(※「明治の亡霊」か)…もう無理でしょう。

→ このまま行けば、自爆・自壊して、そこからやり直すしかないだろう。

(※「自爆」などのハード・ランディングは避けたいが…「昭和の敗戦」のようなものは一度だけにしてもらいたい…)

(鈴木)…江戸時代から今に至る歴史を振り返ってみると、日本は謙虚のときのほうが良かったのではないか。

→「思い上がり」が露骨になったのは、日露戦争に勝ったあたりから。…「我々は一等国だ」と威張り、侵略戦争をやったり捕虜を虐待したりとメチャクチャをするようになった。
…それくらいだったら、まだ「我々は遅れた国だ」と認識して、努力していた頃のほうがよっぽど良かったのではないか。

→ 今では、「日本軍には従軍慰安婦はいなかった」「日本軍は虐殺をしなかった」「日本の歴史で恥ずかしいことは何もない」…などと臆面もなく言い放つ輩がたくさんいます。

→ それで、批判されると、「おまえは日本の先人たちを貶めるのか」と逆ギレする。
…それでは、批判もできないじゃないか。物事を客観的に見る目もなくなってしまいますよ。


○幼児的な日本人


(白井)…いわゆる右傾化をする日本人は、ものすごく幼児的だと思う。

…日本の今のナショナリズムが子どもっぽいのは、戦後の日本が「幼いこと」を全面的に肯定してきたことに起因しており、それは「対米従属」の問題に関係していると思う。

→「無条件の対米従属」が前提とされている限り…「国際社会でどういう立ち位置を占めるのか」「どういう国でありたいのか」…考える必要がないし、自分たちの在り方について責任を持つこともない。

(※「日米は100%一致している!」と、総理大臣が世界に発信してしまった…)

→「責任の主体たりえない」ということで…「子どもでいいんだ」という風潮が、ある種の政治文化になり、「消費資本主義」とも結びついて蔓延して来た。
…資本の戦略として、「消費者にどんどん消費させる」ためには、大人になってもらっては困るわけですから。

(※政治の「幼児性」と高度消費社会の「幼児性」とのシンクロ…。→ 最近のテレビなどのいっそうの白痴化…?)

(鈴木)…なるほど、消費という側面が大きいかもしれないねえ。

(白井)…「消費者に成熟してもらっては困る」という傾向は、世界資本主義の趨勢と非常に親和的。
→ その世界的な傾向の、ある意味で日本はその最先端を走っている。…だって、こんなにロリコン趣味が大っぴらに肯定される文化は他にないですから。

…外国ではごく一部の人たちが(恥ずかしいことなので)こっそり楽しむものだったのに…日本ではロリコン趣味が堂々と商売になって、これを輸出商品にしようというのが「クール・ジャパン」ってやつですが(※「かわいい」文化)…大人としての成熟が求められる社会では、ここまでロリコンが広がることはないでしよう。

(鈴木)…幼児的と言えば、ヘイトスピーチはひどいねえ。

(白井)…ヘイトデモの現場で強く感じたのは、あれだけヘイトスピーチを撒き散らしておきながら、警察に拘束・逮捕されるのは、ヘイトの連中ではなく、カウンター側に目立ちます。→ 警察がどちら側に肩入れしているのかは、非常に明白です。

(鈴木)…「オレたちは国のためにやっている」ということで、彼らは優越感を持っている。
→ 公安警察は、誰を逮捕するか、誰を排除するか、見極めてやっている。…法律とか治安とか、そんな理由ではないです。

安倍首相は、ヘイトスピーチについて「あれは許せない。あんな下品なことをやってはいけない」と答弁しているが…厳しく取り締まることはしない。
→ なぜかと言うと、ヘイトデモは中国や韓国に対する反発であり、その反発を際立たせるためにやっているから。

(白井)…トランプが大統領になって、白人による人種差別団体であるKKKがすごく元気になっている、という嫌な話があるが…それは、彼らが(トランプから)「暗黙のお墨付き」をもらったことがわかるから。

→ 安倍さんも同じです。…口先では「ヘイトスピーチはいけない」と言うけれども、本音がどこにあるか分かるから、ヘイトの連中もやはり、オレたちは「お墨付きをもらっている」と思っているでしょう。


○自由より強い国家


(鈴木)…今は「自由など大したことじゃない」と考える若者が多くなっているんじゃないか。…不自由であっても日本が強いほうがいい。日本が強くなったら、オレたちも強くなれるんだ…そういうふうに思っている。

あるいは、韓国も中国も(※直近では北朝鮮も)許せないから、日本は軍備を増強して核武装しろと主張する。…ある種の幻想の世界なのに、軍事力や核兵器があれば自分たちも強くなれると思ってしまう。

→ でも、国家が強大になったら、言論や表現の自由、集会や結社の自由が潰されるのは目に見えている。

(※「昭和」の最大の教訓のはずなのだが…)

…自主憲法を作ろうと言っているが、自主憲法を作って自由を失うぐらいなら、アメリカに押し付けられた憲法でも、自由があるほうがいいだろう…とぼくは思っているのです。

(※旧日本軍のような支配より、米軍の占領のほうがまだいい…というような、笑えない話か…。この国は、どこまで退行してしまうのか…?)

(白井)…小林氏も、「ナショナリズムの心情が今おかしなことになっている」と言っていました。…先ほど言った、「国を持ち出すことで、脆弱な自己を嵩上げしてもらう」というやつです。


○堂々たる売国


(白井)…トランプ政権になって来るべきものが来た、と思うのは、FTA(二国間の自由貿易交渉)。
→ 自民党政権は、アメリカに対して「全部イエス」のイエスマン政権だから、「日本の国富の切り売りをして、自己保身を図る」という姿勢がますます露骨になって来た…というのが、この間の流れでしょう。

(鈴木)…「対米従属」がさらに強まると。

(白井)…そうですね。さらに露骨になる。…言ってみれば、「堂々たる売国」という感じですよ。

(鈴木)…ウムム。

(白井)…(レーガン政権時代のマネー敗戦)…当時、アメリカは財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」に苦しんでいたが、にもかかわらず、レーガン大統領は「減税」を断行し、その上、ソ連を「赤の帝国」と敵視して、軍事力も強化した(※トランプも今、似たようなことをしている…?)。
…いったいどこにそんな金があったのかというと、「日本からの借金」。

→「日本が所有する米国債」がどんどん膨れ上がったが、(米国債はドル建てだったから)ドルの価値が下落(※円高誘導?)したことによって、「アメリカの借金を棒引き」するという結果になった

(※まんまと謀られた?)。

→ 今の政権も、「マネー敗戦」のときと同じか、もっとひどいことをやる、というのが既定路線でしょう。…自公政権が打倒されない限り、そうなる。


○安倍政権は保守か


(白井)…安倍首相は、自分のことを保守だと言っているが、実際のところ、あんなものは保守でも何でもないでしょう。
…例えば、原発問題への対処といったとき、郷土を愛すること、つまり原発廃止というのが保守の基本ではないのか。

(鈴木)…そうですね。

(白井)…福島原発事故は、あれだけ国土を傷つけ、汚染を撒き散らした。
→ 取り返しのつかない形で国土を汚してしまったことに対し、ぼくはある種の痛みのような感覚を持ちました。

…ところが、びっくりしたのは、安倍さんを支持する自称保守の人たちは、どうやらそういう痛みを全然感じていないらしい。…そうだとすると、この人たちはいったい何なのだろうか…。(※似非保守か…)

いま話題をさらっている日本会議にしても、自分たちは保守であり、保守革命をすると自称しています。
…『日本会議の研究』の著者の菅野完に、「日本会議の人たちは、対米従属の問題をどう考えているのか。まともに考えているようには見えないけれども」と聞いたところ…「まさしく何も考えていないと思う」という答えが返ってきた。

(鈴木)…ぼくは日本会議の人たちと一緒に学生運動をやっていた。…アメリカに占領されたことが大きいと思う。アメリカは天皇制を温存したから。
→ もしソ連や中国に占領されていたら、(天皇制は)なくなっていたかもしれない。

(意図的に「共産革命の脅威」が振りまかれたせいもあって)→ それに対して、我々愛国者は戦わなくてはいけない…というのが一番大きかったと思う。

(※「反共愛国」=「親米愛国」という動機付けか…)

極端に言ったら、アメリカだけでなく、韓国も台湾も、日本の自衛隊も警察も仲間だ…という、非常にざっくりとした括りがあった。(※敵の敵は味方…)
→「右翼の人たちは警察と馴れ合っている」と言われるのも、そういうことです。

…体制側が巧かったということもあるが、「共産主義の脅威」が過大に喧伝されたこともあるでしょう。
…産経新聞などは、毎日々々「中国や北朝鮮の脅威」についての記事ばかり…。
→ だからこそ、不満があってもアメリカとは一緒にやらなくてはいけない…という結論に持っていってる。

(白井)…そうですね。「対中脅威論」は、本当に危険極まりないものだと思っています。
→(『戦後政治を終わらせる』にも書いたが)…今のレジームは、「対中脅威論」(※今は「北朝鮮の脅威」も)に頼るしかなくなっている。

新安保法制についても、「自衛隊を米軍の二軍にすることではないか」という批判を受けても、仕方がないのだと開き直っているのが現実。
…「敵がすぐ戸口まで来ているのに、違憲だ合憲だとか言っている場合じゃない。アメリカの力を借りなければ、侵略者である中国を撃退することができないのだから…(そのためには、中東に自衛隊を送って犠牲者が出るのもやむを得ない)」…これが、安倍政権が依拠した、最終的な切り札の理屈ですよ。

…TPPの問題もそうです。それこそ売国奴的なものではないのか。

(※「貿易」による米国への貢ぎ物?)

→ だから、正当化するためには、結局「対中脅威論」でやるしかない。…「中国の政治・経済・軍事の全面にわたる巨大化を防ぐためには、日本が防波堤となる形で、アメリカを中心とするブロックを作るしかない」…という理屈。

…あらゆる政策を正当化する理屈として、「対中脅威論」を持ち出してくる。
→ そんなことを続けていたら、いずれ引くに引けない事態に陥るだろう。…本当に爆弾を弄んでいる、という気がする。

(※日本も北朝鮮も、三代目が国を潰す…?)


○強まる官僚支配


(白井)…結局は官僚が問題だと思う。とくに第二次安倍政権では、外務省の影響力が肥大化・極大化したと思う。
…たぶん、官僚たちから見て、安倍さんはとても扱いやすい政治家じゃないか。何せ漢字の読み方から指南する必要があるのだから…ハナからバカにしていると思います。

→ そういう形で、一部の官僚(※外務省?)による官僚支配がものすごく強まっているのではないか。
…政治家に見識があったり哲学があったりしたら、面倒くさくて仕方がない。
→ むしろ見識も哲学もない政治家のほうが御しやすい…ということで、安倍政権は安定している気がします。

(※安倍政権の「品格のなさ」の所以か…)

一方、トランプ政権のアメリカは…日本について長期的には、誰も何も考えていないのではないか…。たまにちょっとどやし付けておけばいい、という程度の考えではないか。

→ とにかく「対日貿易赤字を何とかしろ」というのが、アメリカの要求だろうが…何とかしろと言われても、日本がアメリカから買うものがない。…農産物の徹底的な自由化をやったところで、大した改善は見込めない。

(※結局、またさらに超高額な武器・兵器を買わされることになる…)

(鈴木)…東京都知事の小池百合子はどうだろう。

(白井)…小池都政もよくわからない。政治姿勢というか、物の考え方の基本がどこにあるのかがわからないのです。…ただ、喧嘩がものすごく強いことだけはよくわかりました(笑)。

(※この対談は、都議選の前に行われたよう…)


○政治に未来はあるか


(白井)…日本の政治に未来はあるだろうか…鈴木さんはどう思われますか。

(鈴木)…ないでしょう(爆笑)。
昔の政治家には、自分の幸せよりも他人の幸せを願う純真な人がいたが……今は違って、自分のエゴイズムだとか、人より目立ちたいとかいう、個人的な理由が大きいと思う。

一方、右翼や左翼、市民運動家、宗教家といった人たちは…それぞれ思想信条は違っても、「正義感や人類への愛」といったことを打ち出して来るでしょう。…でも、今はそういうのが一番恐いと思う。→ なぜなら、何らかの大義の下に、(暴力や殺人であろうと)どんなことでも正当化するから。

それと、憎しみや怒りといった「手っ取り早い感情」を使うのも危ない。…そのほうが運動をまとめやすい。「あいつらは敵だ。あいつらを倒せ」みたいな…。
→ でも同じ意見の人ばかり集まると、より声が大きい人の主張、より過激な方向に引っ張られると思う。…そういう問題点を是正するのはなかなか難しい。

(白井)…政治変革の一つの手法として、「住民投票」が注目されているが、これはなかなか両義的です。
…イギリスは、「EU離脱」について国民投票で決めたが、「新自由主義への反発」の要素がある反面、「排外主義とつながった扇動」もあった。

(鈴木)…政治のことを考えていないけれども選挙には行く、という有権者は、ワンフレーズでわかりやすいことを言っている政治家に投票する。…それでは、政治の死ですよ。

(白井)…昨年の参院選のときに、改憲勢力が2/3の議席を取れるかどうかが焦点となっていたわけだが…その「2/3」の意味を理解していた有権者は2割に満たなかった…とか、7割近くが理解していなかった…という衝撃的な調査結果が出た。
→ ここまで来ると、なぜ普通選挙をやっているのか、理由が見当たりません。

(※現実の「国民」が、あるべき「普通選挙」のレベルに達していない…?)

…そういう意味でも、住民投票がまともに機能するには、いくつものハードルを越えなければならない。

(鈴木)…諸外国の例を見ても、そうでしょう。

(白井)…でも、日本は相当、レベルの低い部類だと思いますけど。

→ ぼく自身の経験で言うと…ドイツでは、そのへんのオジさんと政治の話ができる。彼らは情報収集をしていて、よく考えて自分の意見を理性的に述べていました。…やっぱり平均的なレベルが高いと思いましたねえ。
…他方、日本では、飲み屋で政治の話をしているオジさんの9割は、きわめて凡庸な右翼的怪気炎をあげている。バカバカしくて相手にしようがない。
…諸外国を過度に理想化することはできませんが、日本は相当レベルが低いのではないかと思います。


○人類史の到達点


(白井)…良くも悪くも、19世紀から20世紀にかけては「ナショナリズムの時代」だったわけだが、→ それを超えていくものとして1990年代以後、「グローバル化」が世界を席巻しました。

…当初は、「ナショナリズムはどんどん相対化されるべき」、という雰囲気だったが…「いや、国民国家の相対化はいいことばかりではない」…という現実がはっきり現れたのが、この数年間の動きでした。

(※ヨーロッパにおけるEU(欧州連合)をめぐる動きが、その典型か…)

つまり、現在の情勢は「ナショナリズムへの回帰」という流れになっているわけだが…「人類史という視点」に立ってみると、やっぱりそれは「人類史の最高の到達段階」であるはずがない(※一時的な退行?)…と思うのです。

→ そうだとすると、「どうやってナショナリズムを使いながら、ナショナリズムを超克していくのか」というのが、現時点で考えられる「もっともありうべき政治的立場」なのかなと。

(鈴木)…国家がなくても、もっと小さなところでまとまっていた時代もあったわけでしょう。…日本だって、江戸時代には国家なんてなかったじゃないですか(藩のレベルで動いていた)。

(※「道州制」ではなく、江戸時代の「藩制」ぐらいが(文化発生的にも?)ちょうどいい規模ではないか、とか言う人もいたな…)

→ ところが、世界中が「近代国家」として、地球を舞台に経済活動や軍事活動を始めたため、日本も巻き込まれていった。…かなり無理をして「近代国家」を立ち上げ、国民に教育をして、愛国心を植え付けたわけですよ。

(※その「無理」のツケが、未だに解消されていない…?)

ぼくが注目するのは、そのときに日本の国家が謙虚だったことです。…日露戦争のときも、捕虜となったロシア兵を大事にした。囚われの身となった以上、武士道に則って手厚く扱ったわけです。
…それは、日本が列強に比べて遅れているから、世界から野蛮な国と思われないように国際的な決まりを守ったわけですよ。
…丁髷や切腹なども止め、文化習慣の西欧化を進めた。…そういう時代のほうが、日本は精神的にも豊かだったと思う。

→ だから、「これからの方向性」というならば、「日本はある意味のコンプレックスを自覚して生きる」…ということじゃないかな。

…日本人は、個人としては今も謙虚だと思う。でも、集団になると偉ぶったり、ときには暴走したりする。
憲法を改正して「軍事大国になれば強くなる」…と錯覚するのはダメですよ。

(※確か佐藤優は、「経済が強くない国は舐められる」とどこかで言っていたが、外交官としての経験からか…)

→ もっと「自分自身が努力して強くなること」を考えたほうがいい。
福沢諭吉は「一身独立して一国独立す」と言ったけれども、「個人が自立して国家が独立する」わけで、逆じゃないと思うのです。

(白井)…今の「国家主義的な傾向」というのは、完全に「福沢イズムが逆立ちしたもの」ですね。


○ナショナリズムを超えていけ


(白井)…日本だけでなく、アメリカもEUからブレグジット(離脱)したイギリスも、それからフランスもそうだが…「グローバル化による歪み」に対する不満が爆発しつつあり、それはそれで「当然の反動」なのだが…「自国中心主義」が露骨になる恐れもある。
→ そこで、各国の間で妥協点とか調整点を見出せるのか…という問題になって来るでしょう。

(鈴木)…以前、東京で世界の右翼政党やナショナリストの団結を強める集会をやったことがある。→ そのときのことを言えば、ヨーロッパの人たちとは理解し合えるのだが、ダメなのはアジアです。
…イギリスやフランスの民族主義の思想や活動は参考になるが…中国や韓国、北朝鮮の人たちとは、そもそも話し合えないんだ。

(※アジアの「後進性」…?)

→ 鳩山由紀夫元総理は、「東アジア共同体」と言っていたが…それよりも日本はEUに入るほうが楽なのではないか。EUに加盟すれば、自動的に死刑も廃止になるし。…地理的に遠いから現実には無理なんだろうけれど。

(白井)…ある意味で、そこに根本問題が現れていると思うのです。
…両国の間に「歴史上の深刻な対立」があると、「お互いに頑張りましょう」とはなかなかならない。→ だから、どうすれば「通じる言葉」が作っていけるのか…ということが課題だと思うのです。

(鈴木)…自民党の派閥の領袖たちはかつて、日本と中国の間、日本と韓国の間に危機が生じると、パッと飛んで行って自らのパイプを通して、「戦争だけは避けよう」というメッセージを送りました。…ぼくは、そういうチャンネルが必要だと思います。

(白井)…そういうチャンネルがないと、ほんとに危ないですよ。

(鈴木)…相手国を絶対に許さない、自国の正義を守る…となったら、それは戦争しかないでしょう。

→ 国家で一番大事なことは、「戦争をしないこと」であり、それは同時に国民を幸せにすることである。
…それを見失い、国民の不安を払拭しようと国外に目を向けさせ、自国の領土を一センチ、一ミリたりとも譲れない、戦争する覚悟を持って戦うんだ…という方向に流れているのは、やっぱり危ないと思いますよ。
とくに「戦争を知らない世代」が大半を占めているので、「戦争をしてでも」…と簡単に覚悟したり決意表明をしたりするのは問題がある。

→ そう考えると、戦争勃発寸前の危機になったら…ナショナリズムを戦いながら、「ナショナリズムを超えていく」のが、日本の右翼の本懐でしょう。

(白井)…21世紀の愛国者の使命は、「ナショナリズムを解毒すること」であると。
→ 鈴木さんはそういう境地に達したのかな…という気がします。
                                                                    (4章…了)


〔※本書によれば、政治も憲法問題も、一応の方向性としては…(小手先のあるいは退行的な〝現実主義〟ではなく)…「人類史の到達点」という視点、あるいは「人類の最高の到達段階とは何か」という問題意識を視野に入れて…(日本の場合は、様々な領域における自らの「後進性」を謙虚に自覚しながら)…偏狭なナショナリズムを超えて(解毒して)いく、ということか…〕

(鈴木邦男…「元右翼青年」、今年74歳。 白井聡…気鋭の若手政治学者、40歳。)

                                                                           (『憂国論』…了)
                                          (2017.11.24)          






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