2016年5月23日月曜日

(震災レポート35)

(震災レポート35)

震災レポート・5年後編(1)
 ―[世界状況論 ①]


 昨年の9月に体調不良のため、[政治状況論①]の中野剛志『世界を戦争に導くグローバリズム』を、1章だけで中断してしまった。…その間(中断原稿の末尾に、政治学者・中島岳志の「リベラル保守」についてのインタビュー記事を追記したりしたが)、溜ってしまった未読本に目を通しているうちに、「震災5年」という一つの節目が過ぎて行った。そして、その時期に(急に増えた)メディアの「震災5年」報道などに触れていくうちに、本当に大事なのはこれからなのではないか(言い換えれば、この日本社会では、本質的なことは未だ何も始まっていないのではないか…?)という思いが強くなっていった。
 そこで、今回からタイトルを「拡張編」から「5年後編」とし、サブタイトルは、中断してしまった前回の内容を引き継ぐ形で、「世界状況論」とした。そして、取り上げるテキストは三案ほどあったのだが、二転三転迷った末、あの(外務省のラスプーチンと呼ばれた)佐藤優の著作でリスタートすることにした(その決め手となったことは後述)。



『世界史の極意』 
  佐藤優(NHK出版新書)
    2015.1.10(2015.2.25 5刷)
      ――[前編]


〔佐藤優(まさる)は1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。…社会党員だった伯父の影響も受け、高校生の頃にマルクス主義に関心を持ち、社青同の同盟員となる。同時に、母親がプロテスタントのキリスト教徒だった関係で、子どもの頃から教会に通っていた。そして、大学は無神論について勉強したいと思い(熱心なキリスト教徒だった年上の彼女に振られたこともあって東京を離れ)、同志社大学神学部に進学。19歳のときキリスト教の洗礼を受ける。同大学院神学研究科修了後、外務省入省。2002年、国策捜査によって背任と偽計業務妨害容疑で逮捕され、512日間東京拘置所の独房に拘留される。09年6月執行猶予有罪確定。…『国家の罠』『獄中記』『自壊する帝国』など著書多数。〕

〔『日本の大問題「10年後」を考える』(集英社新書)という6人の講義録の本があるが、その中で佐藤優は、「最近の本で国際情勢を理解するには、中野剛志さんの『世界を戦争に導くグローバリズム』がイチ押しです。…例えば、ウクライナ問題に関して中野さんの書いたものは、私が今まで読んだものの中で最もすぐれています。西ウクライナに拠点を持つ民族主義者たち、ネオナチの危険性というものを非常に正確に捉えています。こういう本はとても役に立ちます」と述べている。→ この言葉が決め手の一つとなって、前回の「政治状況論①」の中断を、この佐藤優の著作によって引き継ぐことにした次第です。…また、もう一つの決め手としては、この著者が本書のねらいの一つを、「戦争を阻止すること」と述べていることです。〕


【序章】歴史は悲劇を繰り返すのか?
  ――世界史をアナロジカルに読み解く


○歴史をアナロジカルにとらえるレッスン

・ヒト・モノ・カネが国境を越えてめまぐるしく移動する現在、ビジネスパーソンには国際的な感覚が求められている。そのためには、(外国語を身につけるだけでは十分でなく)現下の国際情勢が、どのような歴史の積み重ねを経て成立しているのかを正確に認識し、状況を見通す必要がある。…それには、過去に起きたことのアナロジー(類比)によって、現在の出来事を考えるセンスが必要。
・「アナロジー(類比)」とは、似ている事物を結びつけて考えること。→ アナロジー的思考が身についていれば、未知の出来事に遭遇したときでも、「この状況は、過去に経験したあの状況とそっくりだ」と、対象を冷静に分析できる。


○「短い20世紀」に何が起きたのか

・本書でアナロジー的思考を訓練することのもう一つのねらいは、「戦争を阻止すること」(※「戦争を阻止する」というのは、まさに真の外交官マインドか)。…第一次世界大戦から100年を経た現在、ウクライナ問題やイスラム国の拡大など、「戦争の危機」を感じさせるような出来事が世界で起きている。
・1789年のフランス革命から1914年までの「長い19世紀」…理性を正しく用いれば、人間は無限に進歩していくことが素直に信じられた時代だった(啓蒙と進歩の時代)。…科学や産業が発達し、物質的にも豊かになっていったヨーロッパでは、自分たちこそ最も文化的に進歩した地域だと自負し、近代化をとげていない異文化の国々を「未開」や「野蛮」ととらえ、ヨーロッパが指導して、発達させなければならないという「ヨーロッパ中心主義」が、植民地支配を正当化していったのも、この時代だった(※今、そのツケが回ってきている…?)。→ しかし人類を待ち受けていたものは、無限の進歩ではなく、二つの世界大戦だった。…その意味で、第一次世界大戦は進歩の時代の終わりを告げるものだった。
・第一次と第二次の世界大戦(「20世紀の31年戦争」)の期間は、欧米の自由主義と民主主義が深刻な危機を迎えた時代だった。→ 第一次世界大戦中にロシア革命が起こり、1922年にソヴィエト連邦が結成される。→ 戦間期にはドイツでナチズム政権が生まれ、イタリア、日本もファシズム国家として自由主義陣営と対立する。→(1920年には、おそらく35ヵ国以上の立憲主義的な、選挙によってつくられた政府があったが)1944年には世界64ヵ国中のおそらく12ヵ国にすぎなかった。
・戦後は、東西冷戦の時代となるが、1991年のソ連崩壊によって、「短い20世紀」の終わりを見た(イギリスの歴史家ホブズボームの論)。


○「戦争の時代」は続いている

・しかし、1914年に始まった「戦争の時代」は今なお続いている。…「世界大戦」は終わっていない。→ ソ連崩壊の10年後、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件、2003年のイラク戦争を皮切りに、現在のシリア内戦やウクライナ危機、イスラム国の脅威まで、人類が戦争や紛争をしなかった時期などまったくない。
・EU諸国も金融危機以来、社会は不安定化する一方…2014年の欧州議会選挙(EU28ヵ国)では、フランスの国民戦線、イギリスの英国独立党、デンマーク人民党など、反移民、反EUを掲げる極右勢力の議席が急拡大した。…英国ではスコットランド独立問題が生じ、ベルギーでも南北の対立が激化して、北部(フランドル地方)に独立の動きがある。
・日本を見ても、領土問題に関する近隣諸国との緊張は高まる一方…とりわけ尖閣諸島をめぐっては、誤解や挑発が引き金となって日中武力衝突に発展する危険性がある。…ごく一般的なビジネスパーソンでも、今の日本と世界に対して、きな臭さを感じているはずであり、その直感は正しいのだ。(※そして、さらに朝鮮半島にも〝きな臭さ〟が…)


○核兵器を使わずに戦争する「知恵」

・なぜ、第一次世界大戦から100年を経て、「戦争の時代」が再燃しようとしているのか。→ ウクライナ紛争やイスラエル軍によるガザ攻撃によって、核は抑止力として機能しないことがはっきりした。→ 人類は、核兵器を使わない範囲で戦争をする「知恵」をつけてきているのだ。…つまり、先進国であっても、2000人程度の死者が出る範囲の戦争なら、抵抗がないような状況がつくられつつある。(詳細はP16)
・安倍政権中枢や外務官僚は、自衛隊員の海外派兵を可能にする解釈改憲を本気で考えていた。→ 結果的に、公明党が連立与党に加わり、閣議決定の内容に制約を加えたために、集団的自衛権の実質的な行使には高い障壁ができたが、そもそも立憲主義の何たるかをわきまえていない安倍政権は、常に暴走するリスクを孕んでいる。(※う~ん、元外務省主任分析官も指摘する、安倍政権の危険性…)


○歴史の反復に気づくために

・このような状況にあって、知識人の焦眉の課題は「戦争を阻止すること」だ。→ そして、戦争を阻止するためには、アナロジカルに歴史を見る必要がある。…いま自分が置かれている状況を、別の時代、別の場所に生じた別の状況との類比にもとづいて理解するというアナロジー的思考は、論理では読み解けない非常に複雑な出来事を前に、どう行動するかを考えることに役立つから。
・「歴史は繰り返す」とよく言われるが、歴史が反復しているかどうかを洞察するためには、アナロジカルに歴史を見ることが不可欠だ。…(1章で詳しく見るように)現代は、19世紀末から20世紀初頭の帝国主義を繰り返そうとしている(ぼんやりとニュースを見たり読んだりしているだけでは、こうした歴史の反復に気づくことはできない)。→ 帝国主義の特徴や論理を知っていること、その知識を現代の状況と類比的に結びつけることではじめて、現代が帝国主義を繰り返していると洞察できるのだ。


○ヘイトスピーチの背景

・(現代がどのような時代であるかを完璧に説明することなどできない)→ そこで、過去の歴史的な状況との類比を考えることによって、現代を理解するという作業が必要になる。…この作業は、現在を理解するための「大きな物語」(社会全体で共有できるような価値や思想の体系)をつくることだとも言える。…「長い19世紀」の時代であれば、「人類は無限に進歩する」とか「民主主義や科学技術の発展が人々を幸せにする」というお話が「大きな物語」だ。
・ところが、民主主義からナチズムが生まれ、科学技術が原爆をつくるようになると(※「フクシマ以後」は「原発」も…?)、人々は「大きな物語」を素直に信じることができなくなる。→ とくに、私の世代以降(※50代前半以下?)の日本の知識人は、「大きな物語」の批判ばかりを繰り返し(※いわゆる「相対主義」論者?)、「大きな物語」をつくる作業を怠ってきてしまった。(※低成長の「成熟社会」というのは、大きくはないかもしれないが、「長い21世紀」の一つの物語にはなり得ると思うのだが…)
・その結果、何が起きたか……排外主義的な書籍やヘイトスピーチの氾濫だ。…人間は本質的に物語を好む。→ だから、知識人が「大きな物語」をつくって提示しなければ、その間隙をグロテスクな物語が埋めてしまうのだ。…具体的には、知識人が「大きな物語」をつくらないと、人々の物語を読み取る能力は著しく低下する。→ だから、「在日外国人の特権によって、日本国民の生命と財産がおびやかされている」というような稚拙でグロテスクな物語であっても、多くの人々が簡単に信じ込んでしまうようになる。(※う~ん、一定の説得力はあるように思えるが、因果関係がちょっと短絡的な印象も…?)


○私の方向転換

・2014年の日本と世界を見ると、(私自身も認識が甘かったし、私が考えている以上に)人類は愚かだった。…これまで私の歴史を読み解く方法は、いったん歴史を類型化(各国の文化をタイプ分け)し、それぞれの特性を探る(具体性と実証性にこだわる)、という読み方だった。…つまり「世界史は複数ある」…アメリカの視座から組み立てた世界史もあれば、日本の視座からの世界史もある。→ しかし、知識人が「大きな物語」をつくることを怠ってきたせいで(※輸入思想ばかり…?)、日本の視座から組み立てた世界史の影は薄くなってしまった。(※というより、日本の視座から組み立てた世界史といえば、過去には「皇国史観」だけ…?)
・そこで、自覚的に日本の「大きな物語」を再構築する必要を感じた。→ それを踏まえて、帝国主義的な傾向を強めていく国際社会の中で、日本国家と日本国民が生き延びる知恵を見いだしていくことを意図していた。←→ しかし現在の私は、それよりも、グロテスクな「大きな物語」の氾濫をせき止める物語を構築するほうが急務の課題だと認識している。(※う~ん、それだけ状況は悪化、切迫している、ということか…)


○日本が国際社会から孤立している理由

・2012年の第二次安倍政権発足以来、麻生太郎副総理が憲法改正のためにナチスの手口を学ぶことを肯定するような発言をしたことで、国際社会から非難の声が多数浴びせられた。…靖国参拝や慰安婦問題をめぐる政府の対応に対しても、「日本の右傾化」を危ぶむ海外の政治家やメディアが跡を絶たない。→ その結果、国際社会からの日本の孤立が進んでしまっている。
・安倍政権が日本の孤立を招くような対応を繰り返すのは、アナロジカルな思考や理解が欠如しているから。…ex. 慰安婦問題について欧米の人々は、「自分の娘や妹が慰安所で性的奉仕に従事させられたとしたら…」という思いでこの問題を見ている。←→ だから、(こうした類比的な思考を一切考慮せず)かつてはどんな国にも公娼制度があったと主張しても、国際社会からの理解を得ることはできない。…言ってみれば、安倍政権は、コンビニの前でヤンキー座りをして、みんなでタバコをふかしている連中と同じだ。仲間同士では理解しあえても(※劣化したお友だち内閣…)、外側の世界が自分たちをどう見ているかは分からない。…アナロジカルに物事を考える訓練をしていないと、外部の世界を失ってしまうのだ。
・資本主義(1章)、ナショナリズム(2章)、宗教(3章)……私の見立てでは、この三点の掛け算で「新・帝国主義の時代」は動いている。…その実相をアナロジカルに把握することが、本書の最終目標だ。→ そのことによって、現下の世界のあり方を正確に捉えて、「戦争の時代」を生き抜く知恵を歴史に探ることが、本書のねらいだ。


【1章】多極化する世界を読み解く極意
  ――「新・帝国主義」を歴史的にとらえる


(1)帝国主義はいかにして生まれるのか



○旧・帝国主義の時代

・「帝国主義の時代」…1870年代~第一次世界大戦…この時期、欧米列強が軍備を拡大させ、世界各地を自らの植民地や勢力圏として支配していった。
・主要国の資本主義が発展し、相互の競合が激しくなる。→ 将来の発展のための資源供給地や輸出市場(※今と同じか…)として、植民地の重要性が見直された。→ 不況と低成長(※これも同じ…?)が続いた1870年代以降には、本国と植民地との結びつきを緊密にし、まだ植民地となっていない地域を占有しようとする動きが高まった。
・この背後には、欧米諸国に、ヨーロッパ近代文明の優越意識と非ヨーロッパ地域の文化への軽視が広まり、非ヨーロッパ地域の制圧や支配を容易にする交通・情報手段や、軍事力が圧倒的に優勢であるという状況があった。→ 1880年代以降、諸列強はアジア・アフリカに殺到し、植民地や勢力圏を打ち立てた。…この動きが帝国主義。(※う~ん、植民地を発展途上国と読み替えれば、現在の状況とほとんど変わらないのでは…)
・イギリスは、1870年代にエジプトのスエズ運河の株式を買収し、インド帝国を成立させた。…フランスも、1880年代に植民地拡大政策をとり、アフリカやインドシナ半島を次々と植民地にしていく。…では、なぜ1870年代から帝国主義の時代に突入したのか…。


○重商主義の心理

・16世紀以降、資本主義は、重商主義 → 自由主義 → 帝国主義(独占資本主義)→ 国家独占資本主義 → 新自由主義…という形で変遷してきた。
・重商主義とは、16世紀に形成される絶対王政が実行した経済政策であり、国家が商工業を育成し、貿易を振興することをいう。…初期の重商主義は、他国の鉱山を開発して金銀を直接奪う重金主義。→ 次に、貿易黒字による貨幣獲得を重視する貿易差額主義。→ そして国内輸出産業の保護育成をする産業保護主義の段階へと移っていった。
・重金主義の代表はスペイン。…16世紀前半に、コルテスはアステカ帝国を征服し、ピサロはインカ帝国を滅ぼした。→ スペインは、征服したアメリカ中南部(※今のスペイン語圏?)で鉱山を経営し、金銀を直接獲得する。…現地のインディオに奴隷労働をさせて、発掘した金銀を自国に持ち込んだ(※ほとんど略奪か、ひでえもんだ…)。→ しかしスペイン王室は戦費と浪費で破産。…金銀も無尽蔵ではないので、結果的に重金主義は廃れていく。
・17世紀になると、重商主義の中心は外国貿易になる。つまり国家が輸出入を規制して、利益を吸い上げる。…これが貿易差額主義。ex. 東インド会社…国家が特許状を与えて、貿易を独占的に行う会社。→ イギリスが1600年、オランダが1602年、フランスが1604年と相次いで設立された。
・貿易が活発になると、輸出産業を保護する必要が出てくるため、国内産業を保護する産業保護主義が中心となる。…外国製品の輸入を禁止・制限したり、輸入品に高い関税をかけたりする(※今でいえば、円安誘導の為替操作か…)。
・こうした重商主義のポイントは、国家が経済に強く介入して国富を蓄積していくことにある。→ 重商主義の心理は、いわば漁民の心理…海に出れば、儲けることができる。…そこに国家がスポンサーになるのが重商主義。
・このような重商主義のメンタリティーを理解するのに最適な文献は『ガリバー旅行記』…ガリバーがなぜ大人国、小人国など、未知の国へ出かけたのか。→ 珍しいものを持ち帰って、それを売りさばいて利益を得たいから。(※う~ん、こんな読み方はしなかった…)


○イギリス覇権の時代

・この重商主義を最初に捨てたのは、いち早く産業革命が起きたイギリスだった。→ 産業革命によって、産業資本家が強くなってくると、国家の規制が邪魔になってくる。→ そこで彼らは自由主義的な改革を要求し、19世紀半ばには自由貿易を確立していく。
・この時期のイギリスは、圧倒的な海軍の力と経済力を持つ覇権国家だった。…富も生産力もチャンピオンだから、よけいな規制などない自由競争が一番有利(※今のアメリカは、TPPが有利…?)→ 同時にイギリスは、帝国主義の時代に先駆けて、市場を拡大するために、アジア、ラテンアメリカ、アフリカに対して、一方的に自由貿易の強要や植民地化を進めていく。
・しかし1870年代に入り、イギリスの圧倒的な力も翳りを見せるようになった。…繊維工業が成功していたイギリスは、技術革新による重化学工業への転換に遅れをとってしまった。
・重化学工業ではドイツのほうが成長がめざましかったが、さらに19世紀末になると、アメリカが世界一の工業国になる。→ この時期から、覇権国家であるイギリスの存在感は低下し、そしてイギリス主導の自由主義の時代は終わり、帝国主義の時代が訪れる。


○資本主義はなぜ帝国主義に変容したのか

・マルクスの『資本論』とレーニンの『帝国主義』との違い…『資本論』で考察されるのは、国家が市場に干渉しない純粋な資本主義の世界。←→ 『帝国主義』では、市場に介入する国家の機能が重視されている。…『帝国主義』のポイントは、独占資本が国家と結びついているところに帝国主義の特徴がある、ということ。

・レーニンによる帝国主義の五つの段階

① 資本の集積と集中によって、寡占(独占)が出現すること。……19世紀末に、技術革新によって重化学工業(製鋼・電気・化学・石炭・石油)が発展していくと、巨大な生産設備が必要になり、生産と資本の集積と集中、独占が進む。→ 大企業が中小企業を合併・吸収して、巨大企業による独占化が進んでいく。→ このような巨大企業は、国家に影響を与えるようになり、国家も外国との関係において、自国の資本を保護するようになる。
② 産業資本と金融資本の結びつきで、金融資本の優位がもたらされること。……同じことが銀行でも起こる。→ 中小の銀行が大銀行に組み込まれ、大銀行(銀行資本)は大企業(産業資本)との結びつきを強める。→ さらに大銀行が巨大企業の株主になることで、企業を傘下におさめてしまう。…レーニンは、株式の発行が金融分野における寡占を強めることを指摘しているが、証券市場が大衆化している現在の日本でも、機関投資家が圧倒的な影響力を持っていることは説明するまでもない(※金融資本主義か…)。
③ 商品輸出と区別された、資本輸出が重要になること。……資本輸出とは、外国の政府や企業に対して、借款、公債、社債などの形で資本を貸し付けたり(間接投資)、外国に工場や道路を建設したりすること(直接投資)。…間接投資の目的は、利子の獲得だが、多くの場合、貸し付けた資金で、自国の商品を購入することを条件にする。…また、帝国主義国の資本が外国に投資されるのは、現地の安い労働力、安い原料を用いて、利潤を獲得するため。→ 現在の日本政府も企業も、アジア諸国に資本輸出を積極的に行なっている。(※原発や新幹線などの輸出で、中国などと競っている…)
④ 多国籍企業が形成され、国境の制約から生じる資本間の軋轢を回避すること。……巨大企業が海外進出するようになると、国境を越えた多国籍企業が生まれる。…資源や労働力は国際的に不均等に存在しているので、より効率よく生産するために、多国籍企業が生まれる。→ 多国籍企業の形成によって、資本は国境の制約から自由になるが ←→ これは国家機能の強化とは逆行する働き(後述)。
⑤ 主要国による勢力圏の分割が完了していること。……国家が強力な軍事力を背景にして、世界を植民地や保護領、自治領などに分割していく、ということ。


○社会主義が資本主義の自己改革を促した

・レーニンの議論を読むと、資本主義がいかに変容していくか、その姿がよくわかる。…個人所有の会社 → 株式会社に発展 → 金融資本が中心になって帝国主義化…そこでは(商品ではなく)資本輸出が主流になる → さらに市場を求めて外国に進出 → 対外進出は帝国主義国どうしの対立を引き起こし、第一次世界大戦に帰結 → この大戦中(1917年)にロシア革命によって、ソ連型の社会主義体制ができたことで、資本主義も再び変容する。…具体的には、冷戦期の資本主義。
・帝国主義化した資本主義体制の国々は、戦後、社会主義革命を阻止するために、福祉政策や失業対策など、資本の純粋な利潤追求にブレーキをかけるような政策をあえてとるようになった。…利潤は多少減少しても、資本主義を守るためにはやむを得ない、というわけだ。
・つまり、国家という暴力が資本という暴力を抑え込み、結果として労働者の利益になるようなことをするのだが、(それは善意からではなく)資本主義システムを維持するほうが、国家にとって得になるからこそそうするのだ(※資本主義の本質は、あくまで資本の自己増殖にあり、国家の本質とは、その権力と既得権益の維持にある、ということか…)。…このような国家が資本に強く介入する資本主義を、マルクス経済学では「国家独占資本主義」という。
・実際、冷戦下の1950年代~1970年代にかけて、資本主義陣営は前例のない経済的繁栄を迎える。…この「黄金の時代」は、同時に福祉国家の時代でもあった。→ 国家の大規模な公共事業や手厚い社会福祉のもと、失業率は低下し、多くの労働者が豊かな生活を享受できるようになった。…日本の高度経済成長時代もこの時期に当たる(※この時代に戻れ、という論者もまだ少なからずいるようだが、これは「人口ボーナス」による、すべてが右肩上がりの例外的な時代だ、とする冷めた論者もいる…)。
・つまり、社会主義は、資本主義に対抗するものというイメージがあるが、結果から見ると社会主義は、資本主義の自己改革を促す役割をも担っていたのだ。
・しかし、ソ連崩壊によって東西冷戦が終結した1991年以降、状況は一変した。→ ここから、アメリカの覇権が完全に確立し、ヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に移動するグローバル化が加速していく。→ 具体的には、福祉国家による行き詰まり(※財政危機?)から、「新自由主義」が主導権を握っていく。…新自由主義とは、(政府による社会保障や再配分は極力排し)企業や個人の自由競争を推進することで、最大限の成長と効率のいい富の分配が達成される(※今は幻となったトリクルダウンのこと…?)、と唱える経済学的な立場。
・1980年前後、イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権、日本の中曽根政権といった、新自由主義的な政権が次々と誕生し、80年代を通じてこの新自由主義はグローバリゼーションと結びつきながら、巨大な格差を生み出し続けることになった。


○新・帝国主義の時代はいつから始まったのか

・しかし2000年代に入って、BRICsをはじめとした新興国の経済が急成長するにつれて、アメリカの存在感は低下する。…2001年の同時多発テロ事件、2008年のリーマン・ショックは、軍事と経済双方でアメリカの弱体化を世界中に知らしめることになった。→ この2008年あたりを境に潮目が変わり、「新・帝国主義の時代」に突入した。
・リーマン・ショックの直前、2008年8月にロシア・グルジア戦争が起きた(詳細はP47~48)。→ このロシア・グルジア戦争後、国際秩序が根本的に変化したと考える。すなわち、武力によって国境を変更しない、という国際ルールが、ここで綻びを見せたのだ。


○オバマ政権の「見えない帝国主義」外交

・2008年を境目として、世界が「新・帝国主義の時代」に突入したことの傍証は、いくつでも挙げられる。…中国による尖閣諸島、南沙諸島、西沙諸島の領有権の主張や防空識別圏の設定しかり。…ウクライナ危機やロシアによるクリミア併合しかり。…EU諸国もまた、旧宗主国であった東南アジアに次々と投資をし、影響力を強めている。
・オバマ政権も、目に見えない帝国主義の道を突き進んでいる。その象徴的な地域が南スーダンとミャンマー。…2011年に、石油資源が豊富な南スーダンを(中国と競って)独立させた(アメリカの傀儡国家)。…ミャンマーは、2012年にオバマ大統領が訪れてから、急に関係がよくなった。→ ミャンマーを親米国にすることで、中国を西側からインド洋に出られないようにし、イランからパイプラインを引くことも不可能にした。(※詳細はP49)


○覇権国家の弱体化が帝国主義を準備する

・以上の「旧・帝国主義の時代」から「新・帝国主義の時代」への流れの中のポイントは、自由主義の背後には常に覇権国家の存在(※世界の安全を保障?)があり、覇権国家が弱体化すると、帝国主義の時代(※群雄割拠)が訪れる、ということ。
・イギリスが覇権国家だった時代は、自由貿易の時代だった。→ しかしイギリスが弱くなると、ドイツやアメリカが台頭し、群雄割拠の帝国主義の時代が訪れる。→ その後、二回の世界大戦とソ連崩壊を経て、アメリカが圧倒的な覇権国家として君臨するようになる。→ しかし、同時多発テロ事件やリーマン・ショックを経て、アメリカの弱体化が明らかになると、ロシアや中国が軍事力を背景に、露骨に国益を主張するようになる。→ その結果、かつての帝国主義を反復する「新・帝国主義の時代」(※群雄割拠→部分戦争の危機)が訪れているのだ。


○新旧の帝国主義の相違点

・(かつての帝国主義とは異なり)21世紀の新・帝国主義は、植民地を求めない。…(それは人類が文明的になったからではなく)単に植民地を維持するコストが高まったから。…また、新・帝国主義は全面戦争も避ける傾向を持つ。全面戦争によって共倒れになること恐れるから(※さすがに二回の凄惨な世界大戦で、そのぐらいは学習したか…)。→ 植民地を持たず、全面戦争を避けようとするのが、新・帝国主義の特徴だ。
・しかし、新・帝国主義になっても、外部からの搾取と収奪により生き残りを図るという帝国主義の本質や行動様式は変わらない(詳細はP51~52)。→ つまり、帝国主義が(譲歩や国際協調を装っていても)再び牙を向く方向へ路線を変更する危険性が常にある、ということ。→ 相手国が弱体化し、国際世論の潮目が変わって、自国の権益を拡張する機会を常にうかがっているわけだ。(※う~ん、リアル・ポリティクス、パワー・ポリティクスの世界…まさに外務省主任分析官の領域か…)


○グローバル化の果てに国家機能は強化される

・(もう一つの重要なアナロジー)…帝国主義の時代に国家機能は強化される。…その大きな要因として、グローバル化が挙げられる。→ 19世紀後半もグローバル化の時代だった。…19世紀は「移民の世紀」とも呼ばれ、数千万人というかつてない規模の移民が生まれ(※今の移民とは方向が逆か…?)、国境を越えた資本の移動も活発になる。→ ところがグローバル化が進むにつれて、欧米列強は権益拡大のため独占資本と結びついて、力による市場拡大と植民地化を目指すようになった。→ 冷戦崩壊後も同じだ。
・冷戦崩壊以降、(経済のグローバル化が進む中で、国家の介入が一時は薄まったが)むしろグローバル化が極端に進んだ現在は、ベクトルは国家の機能強化に向かっている。…国家の生存本能からすると、グローバル化は自らの存立基盤を危うくする。→ なぜなら、グローバル資本主義が強くなりすぎると、国家の徴税機能が弱体化するから(ex. 多国籍企業の、法人税率の低い租税回避地(タックスヘイブン)を利用した税逃れ)。→ 各国とも国家機能の強化に傾いていく。(※なんと、各国の首脳たちも税逃れ! といま世界を騒がしている…)
・国家は、自己保存の機能を本質的に持っている。自己保存のためには、暴力を行使することも厭わない。…グローバル経済が浸透した結果、先進国の国内では格差が拡大し、賃金も下がっていく(※国内で搾取・収奪)。→ それによって国内で社会不安が増大するとき、国家は国家機能を強化(※国家防衛)する。…その意味で、グローバル化の果てに訪れる帝国主義の時代に、国家機能が強化されるのは必然といえる。(※アメリカや中国、そして日本でも、今の政治のトレンドが〝強い国家〟に傾いているのは、帝国主義の時代の兆候というわけか…)


○日本が武器輸出三原則を緩和した理由

・では、日本はどうか。…日本もまた、新・帝国主義の時代のプレイヤーであることに変わりはない。(その具体的な例)…武器輸出三原則の緩和によるオーストラリアへの潜水艦の売り込み(詳細はP55~56)。→ これが新・帝国主義の外交であり、このようにして新・帝国主義は、経済の軍事化と結びつくことになる。(※今の安倍政権の動きの構図が、とてもよくわかる…)


(2)資本主義の本質を歴史に探る


○すべては「労働力の商品化」から

・(「新・帝国主義の時代」をさらに深く理解するために、資本主義の本質というものを考えてみる)…資本主義の起源や本質について、首尾一貫して説明できているのは(著者の見立てでは)今のところマルクス経済学(及びその宇野弘蔵の解釈)だけ。
・マルクスは、資本主義社会の本質を「労働力の商品化」と考えた。→ 「労働力の商品化」には、二重の自由が必要。

①身分的な制約や土地への拘束から離れて自由に移動できること(契約を拒否できる自由を持っていること)。
②自分の土地と生産手段を持っていないこと(生産手段からの自由)。

→ こういう人はどうやって生活するのか。自分の労働力を商品化する、…つまり労働力を売って生活する(※賃労働)。
・では、そのときに労働力の価値である賃金は,どう決まるのか…それには三つの要素がある。

①(1ヵ月の賃金なら)労働者が次の1ヵ月働けるだけの体力を維持するに足るお金(食料費・住居費・被服費+ちょっとしたレジャー代など)。(※労働力の再生産)
②労働者階級を再生産するお金(家族を持ち、子どもを育てて労働者として働けるようにするためのお金)。
③資本主義社会の科学技術の進歩に合わせて、自分を教育していくためのお金。

…賃金は、以上の三つの要素によって決まる。…この考え方は、マルクスの最大の貢献だった。→ いまだに打ち破られていない重要な基礎理論。(※う~ん、これによれば、今の日本の「非正規雇用」の賃金の多くは、せいぜい①だけで、②や③の条件を満たしていないことになる…)


○なぜイギリスで「労働力の商品化」が起きたのか

・それでは、近代資本主義はいかに成立したのか。→ 労働力の商品化は、歴史的偶然によってイギリスで起きた。きっかけは、15~16世紀に起きた「囲い込み(エンクロージャー)」。
・この時期、ヨーロッパは大変な寒冷期。→ ヨーロッパ全域で毛織物の需要が急激に高まる。→ 大量の羊毛が必要になり、イギリスでは領主や地主が農民を追い出して、羊を飼い始めた(このとき、農地の周りを生け垣や塀で囲って牧場に変えたので「囲い込み」という)。→ 追い出された農民たちは、都市に流れていった。…彼らは、身分的制約がなく、土地や生産手段も持っていない(先ほどの「二重の自由」にあたる)。→ つまり、もう自分の労働力を売るしかない。そこで彼らは、毛織物工場に雇われていった。…これがイギリスで起きた「労働力の商品化」。
・例えば、1000円で労働者を雇って、1500円の儲けが出る。この差額の500円は資本家に入る。2000円の儲けが出れば、1000円が資本家の懐に入る。→ いくら儲けても、賃金は先述の三つの基準で決まり、それ以上のお金が労働者に分配されることはない。→ 賃金は、労働者階級の再生産に必要な額が支払われるだけであって、労働者の賃金は資本家からの分配ではないのだ。…これがマルクスの『資本論』のポイントだ。(※う~ん、繰り返すが、今の日本の「非正規雇用」の多くは、このマルクスの賃金の定義以下…)


○なぜスペインで資本主義が生まれなかったのか

・このように、労働力の商品化が成立すれば、資本家と労働者の間でそれ(労働力)を売買する資本主義システムが動き出す。→ そうして利潤は増えていき(資本の蓄積)、労働者が再生産されることで、資本主義が回っていくことになる。
・結局のところ、ある偶然的な事情でイギリスの毛織物産業だけで成立した事象が、他の産業も全部席巻してしまった。…それが近代資本主義の正体だと考えるのが適切。(※う~ん、イギリスの毛織物産業でというのは偶然だとしても、いずれどこかの国のなにかの産業で、この近代資本主義システムは動き出したであろうことは、必然だった、ということか…?)→ 従って、労働力の商品化が行われる限りにおいて、西欧諸国でも仏教国でもイスラム諸国でも、資本主義は成り立つ。…資本主義に普遍的な傾向があるのは、そのためだ。(※近代資本主義の正体とは「労働力の商品化」であり、そのことは普遍的な傾向をもつ、ということか…)
・では、旧ソ連や北朝鮮はどうなのか。…これらの国では労働力は商品化されていない。→ 北朝鮮には移動の自由がない(国からここで働けと言われたときに、それ以外のところで働く自由がない)。…旧ソ連でも同様だった。だから、労働力の商品化は行われていない。国家による強制労働があるだけだ。(※う~ん、社会主義国というより、前近代的な専制国家…)
・では、大航海時代にスペインとポルトガルは、新大陸から大量の金銀を奪ってきたのに、なぜそこから資本主義は生まれなかったのか。→ (いろいろな原因の中で最も重要な要素は)スペインやポルトガルの金持ちは、浪費した上に、最後は金銀を修道院や教会に寄進してしまったという点。…永遠の命を保証して欲しいとか、天国に入る権利が欲しいと言うと、カトリック教会はどんどんお金を受け取る。→ そのお金で、新しい豪華な教会を建てたり、飲み食いをしたりして消費してしまい、産業資本という形の富の蓄積がされなかった。(※旅番組などで見る、ヨーロッパの教会の豪華さ…タイの仏教寺院も豪華だったが…)
・スペインの後、海上の覇権を握ったオランダは、富を蓄積した。→ それでも地理的な要因で、資本主義の最先進国にはなれなかった。…もし当時のオランダが、羊の生存に適した羊毛産業のできる風土だったら、オランダで先に労働力の商品化が起きていたかもしれない。
・イギリスは、牧草を育てるのに適した土地があったことに加え、(スペインやポルトガルがカトリックの国であったのと異なり)カルヴァン派のプロテスタンティズムが入っていたため、独特のエートス(倫理)があり、禁欲的に富を蓄積してそれを再び投資に向けることができた。→ つまり、工場を建てて機械を導入し、商品化された労働力を買って、儲けを出す仕組みを生み出すことができた。


○インドのキャラコが産業革命を生んだ

・イギリスでは、重商主義が富の蓄積を可能にし、囲い込みが労働力の商品化を成立させた(しかし、これだけでは産業革命は起こらない)。…産業革命とは、技術革新によって機械での大量生産が可能になったことをいう。→ それは18世紀後半のイギリスの綿工業で始まった。
・16、17世紀のイギリスでは、毛織物が最も重要な産業だった。→ 潮目が変わったのは、1600年に東インド会社が設立され、インドとの貿易が始まってから。…インドからキャラコ(インド綿布)が輸入され、17世紀後半以降、イギリスで爆発的な人気になった(毛織物に比べて、軽くて吸湿性も高く、洗濯もしやすい)。
・国内の毛織物業者にとっては、キャラコは脅威となり、それが政治問題となって、議会はキャラコの輸入禁止の法律を制定したが、それが裏目に出て、よけいにキャラコは売れてしまった。
・キャラコに対抗するには、イギリスでも綿布をつくるしかない。しかもキャラコとの競争に勝つためには、大量に生産して安く売らなければいけない。→ このキャラコという外からの輸入品に勝つために始まったのが産業革命であり、紡績機や織機が次々に発明された。(※そして資本主義社会では、今も類似した経済事象が繰り返されている…)


○恐慌は資本の過剰から起きる

・いち早く産業革命によって圧倒的な工業力を持ったイギリスは、「世界の工場」と呼ばれ、19世紀半ばまで繁栄をほしいままにする。→ しかし、1873年に欧米がかつてない大不況に見舞われ、イギリスも倒産や失業が拡大。→ この大不況は、小さな恐慌を繰り返しながら、96年まで続く。
・不況だからモノが売れない。…この時期は、重化学工業が勃興する第二次産業革命の時代と重なるから、(レーニンが分析したように)生産と資本の集中が進み、独占資本主義になっていく。→ 巨大企業は国家と結びついて、海外市場や植民地を拡大しようとする(※今も国のトップ自ら、海外で自国産業の売り込みをやっている…)。つまり、1873年の大不況が引き金となって、欧米列強の帝国主義は急速に形成されていった。
・恐慌については、過剰生産説とか過少消費説とか様々な説があるが、一番説得力があるのは宇野弘蔵が唱えた資本の過剰説。
・資本主義経済の中では、モノがどんどん売れるようになると、どんどん生産する必要。…その場合、材料はすぐに買ってくることができるが、労働力商品(※生身の労働者)はすぐには買えない。→ 労働力の価値が高まるので、労働賃金が上がる。→ しかし、ある程度まで賃金が上がると、生産をしても儲からなくなってしまい、恐慌が起こる。…これをマルクス経済学の用語で「資本の過剰」という。…つまり、お金はあるけれども、労働力商品が高くつきすぎて、商品をつくっても儲からない(近代経済学で言うコスト・プッシュ)。→ 資本家は、労働者を雇わなくなったり、雇ったとしても倒産したりすることになる。
・その後、会社の中で頭のいい人がイノベーションを起こす。…いかにして労働力を使わないで、同じ商品をつくれるかと考え、機械化や生産工程の改良などで生産効率を上げようとする。→ このイノベーションを起こした会社は、その技術革新が普及するまでの短い期間は一人勝ちすることができる。→ その後、他社にも同様のイノベーションが広がっていくと、産業全体で生産性が上がるので、再び好況になる。…このように恐慌とイノベーションを繰り返して、資本主義があたかも永続するかのごとく続いていく。…これが資本主義社会の内在的論理(宇野理論)。
・恐慌は社会的な負担が大きいから、いかにして恐慌を避けるかが近代の資本主義の課題になっていく。→ 最も分かりやすい恐慌回避策は戦争。…アメリカで第二次世界大戦後、本格的な恐慌が起きていないのはなぜか。→ それはアメリカの公共事業に戦争が組み入れられているから。…朝鮮戦争、ベトナム戦争はアメリカの公共事業であり、それに協力した日本も、少なくともバブル崩壊以前は、恐慌に近い不況を経験していない(※もし朝鮮戦争がなかったら、あれほど世界に称賛されるような、短期間での戦後復興はなかっただろう…)(※そして今、これをアナロジカルに見ると、安倍政権は、安保法制のために解釈改憲を強行し、武器の輸出に道をつけ、着々と戦争という公共事業への道をつけようとしている…? これがアベノミクスの正体か…?)


○保護主義の台頭

・不況に見舞われたイギリスは、1870年から積極的に植民地拡大を目指すようになった。→ 1875年にスエズ運河の株式を買収し、エジプト植民地化の足がかりをつくった。→ 1877年にはインド帝国を成立させ、直接の支配下に組み込む。→ 19世紀末には南アフリカ戦争を仕掛け、南部アフリカ一帯を植民地化。
・ドイツとアメリカは、この不況に対して、関税率アップなど保護貿易を強化することで、自国産業の発展を推進する。→ その結果、工業生産ではイギリスを凌駕するようになった。さらに両国は、1890年代から海外進出を図っていく点でも共通している。
・帝国主義の時代に、保護主義が台頭することも、現代の新・帝国主義をとらえる上で有用なアナロジーとして使える。…現在、欧米の先進資本主義国は、(口先では「自由貿易体制の擁護」を唱えつつ)狡猾に保護主義への転換を図っている。…ロシアのプーチン首相はユーラシア共同体の創設を提唱しているが、これは大東亜共栄圏型の経済ブロック。
・TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)も本質はブロック経済。→ (アメリカが本気で自由貿易を追求するなら、世界的規模でWTO(世界貿易機関)システムを強化すればいいはず)…アジア太平洋という限定された領域に、TPPという特別のゲームのルールを適用させるという発想自体が、広域を単位とする保護主義だと考えたほうがいい。(※TPPの正体は、アメリカ主導の保護主義的なブロック経済…その〝異常な秘密主義〟のうさん臭さが、その証左…?)


○「戦争の時代」とドイツ問題

・1914年を起点とする「戦争の時代」というのは、結局ドイツの問題に帰着する。…西欧の中でドイツは後発の資本主義国だった。→ しかし、帝国主義の時代に入って、重化学工業の産業化に成功し、イギリスを超える工業国となった。→ さらに、1888年にヴィルヘルム二世が皇帝になると、海軍の大増強をはかり、イギリスとの「建艦競争」を展開する(強引な帝国主義政策)。
・それ以前のビスマルク外交のポイントは、フランスの孤立化だった(ex. オーストリア、ロシアとの三帝同盟。オーストリア、イタリアとの三国同盟…P75に地図あり)。…しかし、ビスマルクは海外侵略や戦争には消極的で、もっぱら外交によってヨーロッパの安定を図ろうとした。→ このビスマルク外交からヴィルヘルム二世の「世界政策」への転換が、その後のドイツの運命を大きく変えたと言っていい。
・イギリスとの軍拡競争の末に、第一次世界大戦に突入したドイツは、結局敗戦し、1320億マルクという多額の賠償金を課された。→ 第一次世界大戦後の戦間期にナチスが登場し、第二次世界大戦に突入するが、ここでも再び敗戦。→ そして東西ドイツ統一を経て、今はEUの実質的なリーダーとなっている。
・結局、20世紀の大きな課題は、ドイツという大国をどのように世界に糾合するのか、ということだった。→ しかし、EUができてもドイツの糾合には失敗している。…なぜならユーロ危機以降、経済的にはドイツだけが一人勝ちし、それ以外のヨーロッパ諸国とは利益相反になっているから。…その意味でも、「戦争の時代」である20世紀は、まだ終わっていないのだ。(※エマニュエル・トッドの『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』文春新書2015年、という本もあり…)


○新・帝国主義の時代に戦争は回避できるか

・19世紀末の旧・帝国主義は、戦争を回避することができなかった。→ では、現代の新・帝国主義においても世界戦争は不可避と考えたほうがいいのか。…レーニンは不可避と考える。←→ しかし、イギリスの経済学者ホブソンの『帝国主義論』(レーニンの『帝国主義』の種本)では、一定の条件で戦争は回避できると書かれている。→ そのシナリオは、帝国主義間の勢力均衡をめざすというもの。……ex. アングロ・サクソン連合、汎ゲルマン連合、汎スラブ連合、汎ラテン連合などの広域化した帝国主義国家連合を形成して、世界規模で勢力均衡をとる、というアイディア。…「キリスト教世界がこのようにそれぞれ非文明的属領を従者としてもつ少数の大連合帝国に区画されることは、多くの人にとっては現在の傾向の最も正当な進展であり、かつ、国際帝国主義の確実な基礎の上に、永久平和の最善の希望を提供するものと思われる」。…(※う~ん、当時では、アジア、アフリカ、アラブ、中南米などは、キリスト教世界に従うべき「非文明的属領」か…ものすごい〝上から目線〟…)
・この発想を、現下の新・帝国主義に適用することはできるだろうか。…具体的には、現在の世界が、ヨーロッパ連合、スラブ連合、アメリカ大陸連合、中東連合、アジア連合のような形で分割され、勢力均衡状態がつくられるか、ということ。→ そういった動きが顕在化していることは確か。…事実、EUとは「広域帝国主義連合」だが、経済的な優劣から見た場合、その本質はドイツ帝国主義。→ プーチンは、ユーラシア同盟を本気で構想している。(※中国・習近平の「一帯一路」はアジア同盟…?)
・ただし、その一方で、アメリカの覇権的地位が低下しているとはいえ、その軍事力は圧倒的。…(アメリカが全世界の警察となり、国際秩序の安定を導くというのは幻想だとしても)、アメリカが世界最強の軍事力を持つ国家であることを過少評価してはいけない(アメリカがアメリカ大陸だけの警察官になるようなことはあり得ない)。←→ しかし、そのアメリカですら、アフガニスタン、イラク、中央アジアの小さな国でさえ制圧することはできない。…この二つの現実を踏まえたところに、現在の新・帝国主義が置かれている状況がある。(※う~ん、いかにも元外務省主任分析官らしい分析か…)


○帝国主義時代の二つのベクトル

・帝国主義の時代には、必ず二つの異なったベクトルが働く。一つはグローバル化であり、もう一つは(先述したとおり)国家機能の強化。…グローバル化のベクトルは、経済的には(実物経済より)金融を優先する金融資本主義となって現れる。…19世紀末の帝国主義の時代もそうだった(レーニンの指摘)。
・グローバル経済では、企業も金融も巨大化していくから、組織も人も、少数の勝者だけしか豊かになれない(※1%対99%)。→ アベノミクスによる円安株高の恩恵を受けられるのは、巨大な輸出企業と金融資産を持っている富裕者層に限られるのと同じことだ。→ そうなると、労働者階級の再生産もできなくなる。つまり、貧乏人は結婚も出産もできない(※当方も孫ができそうにない…)。→ 貧困の連鎖が続き、中産階級が育たないので、国力も低下する。
・いま最も懸念しているのは、現在の日本が、明治維新以降、初めて教育の右肩下がりの時代に突入してしまったこと。…ex. OECD(経済協力開発機構)加盟25ヵ国で、日本の教育関連費は最下位(2013年度)だった。…その理由は明白で、教育システムに新自由主義が組み込まれてしまったから(※う~ん、最下位とは…)
・(失われた20年でデフレから脱却できないなか)学費だけは上がり続けた。→ そのため、今の親世代は自分が受けた教育を、子供に与えることが難しくなっている。…質の面でも、効率性を求め過ぎるあまり、巨視的に物事をとらえる教養(※人文系)はほとんど身につかずに、高等教育を終えることになる。(※文科省は、人文系をなくしたいらしい…)
・この状態が続けば、高等教育の初期段階で頭脳流出が生ずる可能性も低くない(ヨーロッパの高等教育機関は外国人を含めて奨学金が充実)。→ 少子化の中で頭脳流出が起きれば、国力は必ず弱る。…国内で待ったなしの問題は、教育と移民だというのが私の考えだ。(※う~ん、教育と移民が待ったなしの問題か…。移民には「国内移住」の問題も含まれるのか…?)


(3)イギリスの歴史教科書に帝国主義を学ぶ


○金融資本主義に対する三つの処方箋

・19世紀末から戦間期にかけて、金融資本主義が引き起こした貧困や社会不安に対して、大きく三つの処方箋が提出された。
① 外部から収奪する帝国主義……イギリスが植民地主義の拡大に踏み切ったのは、不況に見舞われ、国内に貧困問題や社会不安を抱え込んでいたから。→ 「貧民による内乱を欲しないならば、われわれは帝国主義者とならなければならない」(セシル=ローズ)…イギリス帝国主義は、外部を収奪することによって、国内問題を払拭できると考えていたわけだ。
② 共産主義という処方箋……社会主義革命を起こし、資本主義システムを打倒すること(ハード・ランディング)で、社会問題を一挙に解決する。→ この処方箋が失敗に終わったことは、歴史が証明済み。(※う~ん、本来の「社会主義」は、まだ試されてはいない、という少数意見もあるが…。確かに「一挙に解決」というのはないだろうが…)
③ ファシズム……ファシズムとナチズムがまったく異なるものであることに注意。…ナチズムは、アーリア人種の優越性というデタラメな人種神話でつくられた運動。←→ それに対して、1920年代にイタリアのムッソリーニが展開したファシズムは、共産主義を否定すると同時に、自由主義的資本主義がもたらした失業、貧困、格差などの社会問題を、国家が社会に介入することによって解決することを提唱した。→ 国家が積極的に雇用を確保し、所得の再分配をする。…ムッソリーニが「イタリア人のために頑張る者がイタリア人」と言ったように、ファシズムは、人々を動員することで、みんなで分けるパイを増やしていく運動なのだ。
(※う~ん、「ファシズム」という言葉は、もはや負のイメージが付いてしまっているので、別の言い方のほうがいいような気がするが…)
・これら三つの処方箋のうち、(②共産主義革命には現実性がないから)日本の選択は、①帝国主義と、③ファシズムを、織り交ぜて、アイロニカルに述べるなら、「品格ある帝国主義」を志向…ということになるだろう。(※今の日本の政治は、「品格のない」ものばかり…)


○ゲシヒテとヒストリー

・「品格ある帝国主義」を学ぶ上で、絶好のテキストはイギリスの歴史教科書。…歴史教科書を読み比べることには、歴史の立体的な理解に役立つことと、その国の内在的論理を把握できるという重要な意義がある。
・教科書には、その国が生徒にどの程度の知識水準を求めているのか、あるいは、国家がどのようなスタンスで教育に取り組んでいるのかが明確に表れている(ex. ロシアの歴史教科書には、ロシアの立場を正当化する価値観が強く出ている…詳細はP70~74)
・歴史にはドイツ語で「ゲシヒテ(Geschichte)」と「ヒストリー」という二つの概念がある。…「ヒストリー」は、年代順に出来事を客観的に記述する編年体のこと(日本の歴史教科書はこれ…)←→ 「ゲシヒテ」は、歴史上の出来事の連鎖には必ず意味がある、というスタンスで記述がなされる。…ex. 歴史とは、啓蒙によって高みへと発展していくプロセスである(※進歩史観?)という視点で記述される。…ロシアの歴史教科書は、ソ連崩壊後の国家統合の危機を克服するために、確固としたロシアの物語を打ち出すゲシヒテ。


○失敗の研究

・では、イギリスの歴史教科書はどうか。…『帝国の衝撃』というタイトルの教科書(11~14歳までの中等教育向け)で、扱われているのは、アメリカへの植民から植民地経営を断念する「帝国の終焉」までの時代であり、イギリスによる帝国経営に焦点を絞った構成になっている。
・内容も非常にユニーク。…ex. インド提督(マウントバッテン鄕)に、「インドから撤退することをすすめる手紙を書くこと」が課題として求められている。→(生徒に網羅的な知識を身につけることを要求せずに)徹底的に考えることと書くことを求めているのだ。…こうした視点からの問いが随所に見られる。
・さらにユニークな例を挙げると、終章では「なぜ支配された人々の視点から書かれた章がないのか」といった、想定される批判の声がいくつか紹介されている。→ つまり、教科書の編者自身が教科書のあり方を相対化しようとしている。(※う~む、これは日本の教科書は、負けている…)
・これらの例からも分かるように、この教科書は徹頭徹尾、イギリス帝国主義の「失敗の研究」という点に重心が置かれている。⇒ 旧・帝国主義による植民地は、世界中に災厄をもたらし、憎しみを残した。…なぜ、イギリスは誤ってしまったのか。…一見、「自虐史観」のようだが、そうではない。(※う~ん、この「失敗の研究」こそ、われわれ日本人に最も欠けているものではないのか…先の大戦しかり、原発事故しかり…)
・イギリスも、現在の国際社会が帝国主義のゲームの渦中にあり、否応なくそこに巻き込まれていることを認識している。…しかし、かつてのように植民地主義による帝国主義モデルは失敗することも、強烈に自覚している。→ だからその失敗の歴史を通じて、新・帝国主義の時代のイギリスのあり方を構想することを、教えようとしているわけだ。(※すぐに〝自虐史観〟というコトバを持ち出して、内省することを封じようとする者たちの、レベルの低さ…)


○イギリスの歴史認識に学べ

・イギリスの歴史教科書もゲシヒテだが、ロシアのそれとは正反対の方向を向いている。→ 歴史認識としては、イギリスのほうが強い。なぜなら、自らの弱さを自覚した上で、新・帝国主義の時代への対応を模索しているから。(※う~ん、このことは、今回の震災後の課題にとって、そして、戦後日本の問題や弱点にとっての、重要なヒントになるのではないか…)
・日本の教科書は、価値観をほとんど出さず、必要な要素を漏らさないような記述になっている(ゲシヒテではなくヒストリー)。→ そしてこのことが、現在の日本人の歴史認識において、両刃の剣となっている。……戦後の平和教育(※非武装中立か…)は、東西冷戦下の枠組みで行われてきた。→ そのため、冷戦終結とともに、その有効性は失われてしまった(※確かに説得力が薄れてきたせいか、国民のコンセンサスはかなり揺らいできているよう…)。
・そもそも、この段階(冷戦終結)で、単なるヒストリーを超えた、歴史教育の新たな方向性を模索するべきだった。←→ しかし、知識人はその作業を怠ってしまった。→ その結果、(序章でも述べたとおり)いまや貧困かつ粗雑な歴史観が跋扈し、それがヘイトスピーチや極端な自国至上史観として現れている。
・だからこそ、私たちは歴史をアナロジカルに捉えなければならない。…日本の歴史教科書を読めば、最低限必要な基礎知識は身につくだろう。←→ しかし、その知識をほかの知識と結びつけて理解し、現状を正確に把握することは、訓練なしにはできない(※確かに、試験が終わったらみんな忘れてしまう…)。→ イギリスの歴史教科書は、獲得した知識をアナロジカルに活用するための格好の書だ。(※このことは原発問題にも類比できるのではないか。→ すなわち、「安全神話」から「失敗の研究」へ…)


○品格ある帝国主義とは何か

・日本もイギリスと同様に、新・帝国主義のゲームに巻き込まれている。…中国、韓国との摩擦が激しさを増し(※北朝鮮という前世紀の遺物のような国もある…)、経済的凋落は今なお止まらない。…そして、日本もまた帝国主義国だ。…なぜなら、19世紀の終わりまで、独立した政治体制を持っていた琉球王国を、沖縄県として編入した歴史を持つから(琉球処分)。
・歴史的に、本土と沖縄は天皇信仰を共有していない。沖縄のメディアと本土のメディアの報道内容もまったく異なる。→ 多くの日本人はこの違いに鈍感なため、沖縄も本土の延長上に考え、均質な日本人の一部だと考えてしまう。…つまり、宗主国としての自覚をまったく欠いているのだ。→ 自覚がないために、米軍基地をめぐって、本土の人間が沖縄に強いていることにもまったく気づくことができない。…それでは品格のある帝国主義とは言えない。(※確かに、安倍政権には「品格」というものがまったく感じられない…)
・品格のある帝国主義とは、先述のとおり一種のアイロニーだ。…日本は帝国主義国なのだから、均等な国民国家と思ってはいけない。→ 沖縄という外部領域があるわけだ。…帝国主義国は外部領域を構造的に差別してしまうのだから、せめて帝国主義国らしいアファーマティブ・アクション(※積極的差別是正措置、被差別集団に対する優遇政策)をきちんと行うべき。←→ いくらなんでも、国土面積の0.6%に74%の米軍基地があり、その上に追加して新基地を造るのはやりすぎだろう。→ 外部に与える痛みを極小にして、日本国家の利益を図る。…そういう意識を持つことが、品格のある帝国主義への第一歩だ。(※この著者の母方のルーツは、沖縄にあるらしい…)
・その上で、経済的には再配分を行い、健康で文化的な生活、今後の技術発展に対応できる職業教育、家族を持ち子供を育て、次世代の労働者を育成すること(※生活の基本)。…そして、それができる所得を国民に保証すること(※政治の基本)。
・帝国主義国であることを自覚するとは、自らの手がもう汚れていることを自覚することだ。…だから「品格のある帝国主義」という言い方自体が、アイロニーにほかならない。⇒ アナロジー(類比)やアイロニー(皮肉・反語)は、「見えないもの」を見る力だ。…「戦争の時代」を準備してしまった帝国主義と同じ過ちを繰り返さないために、歴史からアナロジーやアイロニーを引き出す力が求められている。

〔1章の末尾に、「資本主義」「帝国主義」を考えるための本として、水野和夫氏の『資本主義の終焉と歴史の危機』(「レポート」29,30を参照)が挙げられている。そして、以下の推薦文が添えられている。…「利子率の歴史的な変化を指標にして、資本主義の死期が近づいていることを平易な言葉で見事に解き明かしている。グローバル資本主義がもたらす中産階級の没落を、民主主義の危機として読み解く視点も鋭い。」〕

 (4/14…1章 了)            

〔今回のテーマは、資本主義でした。次回(2章)は、民族問題(ナショナリズム)を取り上げる予定です。…前回のように中断しないよう、努力します。〕

〔追記……昨日、行きつけの書店で以下の本を見つけ、(誕生日にもらった図書券で)即購入してしまった。

①『戦後政治を終わらせる』―永続敗戦の、その先へ―  (NHK出版新書)2016.4.10 
②『福島第一原発 メルトダウンまでの50年』―事故調査委員会も報道も素通りした未解明問題―
  明石書店 2016.3.11 

…①の著者は、ベストセラーの『永続敗戦論―戦後日本の核心』(石橋湛山賞、角川財団学芸賞)を書いた白井聡で、本書の目的は「完全な行き詰まりに陥った戦後日本政治を乗り越えるための指針を導き出すこと」とのこと。
…②の著者は、烏賀陽(うがや)弘道で、レポート⑤の『報道災害【原発編】』とレポート⑳の『原発難民』の著者。…本書の内容は、福島第一原発の「失敗の研究」ということになります。
→ 今後の「5年後編」の展開にとって、欠かせない二冊になりそうです。…(また未読本が増えてしまったが)…〕



 (2016.4.14)

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