2014年12月11日木曜日

『日本復興計画』大前研一 文藝春秋 2011.4.30

震災レポート ①

                                     中島暁夫




 さて、あの大震災から(速いのか遅いのか)三ヶ月が経ちましたが、この間、震災関連(とくに原発)の新聞記事を切り抜き、また週刊誌などもある程度チェックしてきましたが、ようやく震災関連の書籍も出始めてきました。そこで今回は、いちばん時事的(状況論的)な内容を含んだ、大前研一の『日本復興計画』を取り上げることにしました。


                                      
『日本復興計画』大前研一 文藝春秋 2011.4.30



[大前研一は、東工大大学院原子核工学科で修士号、名門マサチューセッツ工科大学で原子力工学の博士号を取得。帰国後、日立製作所で原子炉の設計に携わった。その経歴から、今回の原発事故についてその発言が最も注目される評論家の1人といえる。]


・大前は地震直後から、福島第一原発が、これまでの設計思想を超えた未知の段階に突入したと、すぐに分かったらしい。しかし、12日の午後に最初の爆発があってから、ネット上やチェーンメールで様々な憶測・流言蜚語が流れ始めた。そこで、今回の原発事故などをどのように評価したらよいかを、広く自分の経験と知識から知ってもらう必要があると感じ、衛星放送の自分の番組でこの問題を取り上げた。本書の1,2章はその放送をもとにしてその時点での現状分析を振り返り、3章ではその上で今後の短期・長期の日本の将来について考えている。

(1章)3月13日(震災2日後)放送分より

・大前は地震当日の金曜に、友人の原子炉専門家などと連絡を取り合い、「これからは原子炉の問題が大変になる」との認識から、すぐさま民主党にも電話をして、制御不能の状態になる危険性を指摘したが、反応は鈍く、まだ彼らの認識は甘すぎたと言わざるを得ない、と断じている。
・すべての電源が切れて、計器が読めなくなると、マニュアルで育った最近のオペレーターはもうお手上げである。要するに原子炉というものは、非常用のバックアップも含めて、電気を前提にしている。つまり、すべての電源が切れるという事態は想定していない。→ 現時点での反省事項……非常用の電源は何が起きても動くようにすること。ex.ディーゼルだけでなく、太陽電池、風力など系統の異なる電源でバックアップを図る。
・現時点では、まだ予断は許さないが、海水の注入に成功してホウ素が十分入っていれば、核暴走する可能性は非常に少ない。もっとも、崩壊熱がずっと出続けているので、熱がどんどん上がっていずれ炉心が溶けてしまう可能性はある(※実際はこの時点で溶けてしまったらしい!)。暴走すると核分裂が急加速して体膨張が起こり、圧力容器を破って放射線が飛び散る。ジ・エンドである(※これはかろうじて防げた)。
・大前はこの時点で、今回の福島をレベル6相当とし、「このあと炉心が溶融して、表に核分裂生成物が飛び出すことになれば「7」になる」と述べているが、実に的確に評価していたことになる。
・放射線の被曝について……大前はMIT時代、実験中に放射性物質を飲み込んでしまった(内部被爆!)ことがあるという。大学の定期検査のときに発覚したらしい。この時の放射性物質の半減期は50年とのこと。線量が具体的に示されていないが、「現在も私は健康。だから、微量の放射能にそれほど神経質にならずともよい」と述べている。 
→(※ストレスが発ガンの一番の原因という医師もいる(ex.安保教授など)ので、これはとても微妙なところ…。例えばウチの母は甲状腺ガンで亡くなったが、生前は放射線との接点はなかった。…結局発ガンの問題は、今の医学水準では確かなことは言えないようです。ちなみに「文藝春秋」六月号の近藤誠論文では、近藤医師の調べた被爆によるガン死亡率の増加は、日本人の現在のガン死亡率を30%とすると、年間1000msv被爆の場合29%増え、合計59%(30%+29%)。100msvでは2.9%増で合計32.9%。10msvでは0.3%増で合計30.3%(15ヶ国原発作業従事者の調査より)。そこで、一ミリシーベルト以下では発ガンを怖がるのはさすがに行き過ぎ。CT等の医学検査(その8~9割は不要なもの)による被爆やタバコなどの日常的な発がんリスクも多々あり、それらも考慮すれば、現状の原発事故後の国民にみられる被曝への不安やパニックは、バランスが悪すぎると指摘し、結論としては、低線量被爆でも発がんのリスクはある。けれども、それでガン死亡率が増加する割合をどう考えるか(危険と捉えるか、思ったより安全と捉えるか)は、個人によって異なるだろう。政府が頼りにならない以上、正確な情報を得ることに努め、それぞれ自分で対処方針を考えていくしかない…と述べています。「発がんリスクに対する(各個人の)判断が自由であることから、政府が一律に年間20msvで線引きするのは、個人の自由を認めない点で行き過ぎのように思われます」とさえ述べている。誠に近藤先生らしい見解。)
・原子炉を6基も同じ敷地に並べて置くというのはリスクが高すぎる。それは中越沖大震災で柏崎刈羽原発(7基)の事故のときに、すでに分かっていたこと。住民対策がやりやすいから、地元住民の諒解さえ得られれば何基もの炉を同じ場所に設置するのは東電の得意技。→ 同時に幾つもの炉がクラッシュすれば、復旧作業にあたるメンバーが足りなくなるのは目に見えている。これは大いなる反省材料にすべき
(※これは現在、深刻な問題になりつつある)。
・今回はっきりしているのは、これで日本の原子力輸出政策は終わり、日立・東芝などの原子炉メーカーとしての未来もこの段階で終わったということ。また、国内に新たに原子炉を建設することは、もう不可能。今回の事故を見て、東電のお粗末なバックアップ態勢を見てしまったあとでは、引き受けてくれる自治体があるはずがない。諸外国では脱原発の動きが加速しそう。それよりも何よりも、東電がこの先も原子炉を抱えていられるかという問題が出てくるだろう。アメリカではすでに、民間企業が原子炉を持つことは出来ないとの試算が明らかになっている。→ もし原発事業を続けるのであれば、国が公営会社のようなものを作ってやるしかない。そして電力会社に売電する。プルサーマル(再処理された燃料を使う)も出来なくなるだろう。
・日本中で35%の電力節約を。――幸いなことに、日本経済は成長を止めているから、エネルギー需要がいま以上に高まることはない。
・今回の震災は、やはり阪神・淡路の比ではない。→ 本当に日本人が試されるのは、これからだと思う。

(2章)3月19日(震災一週間後)放送分より

・前回、日本の原子力産業は終わった、と言ったが、東芝、日立、三菱重工などは深刻な影響を受けるだろう。日本の産業界には、まさに大激震となる。
・昨日、原子力安全・保安院は、福島原発の事故を「レベル5」とのたまった。それまでは「4」と言っていた。これはもう世界の恥である。真実を国民に伝えていないのと同時に、世界中から日本政府は信用できないと猛烈なリアクションを呼ぶことになろう(4/12にレベル7に引き上げた)。
(※この時点で、ここまではっきりと政府発表に対して批判しているのは、小生の知る限り他には上杉隆ぐらいだと思われる。)
・大前は四年前、中越沖地震で停止した柏崎刈羽原発について、プラントとしての反省点をいくつか指摘したが――複数の原子炉を同一敷地内に置かないこと。非常用電源を確保すること。応急措置として(原理の異なる)小型の火力発電所をつくれ――しかし東電はまったく検討した形跡すらないという。
・隠蔽体質の東電……これまでも事故が起こるたびに嘘をつき、真実を隠してきた。今回、事故で右往左往するさまを見ていると、隠蔽体質というよりも、単なる能力不足という気もしてくる。…原子力安全・保安院も、東電にすべて押しつけて何もしない。その東電本社の中に司令塔を作った政府も ? である。
・アメリカの見方・態度……首相官邸は東電の意見を嘘も含めて鵜呑みにしており、日本政府は、たかが一企業に振り回されて、国民を守ることさえやっていない。だから在日米国人については自分たちが持っているデータに基づき、われわれのルールでやらせてもらう。→ 福島原発80㌔圏外への避難勧告。…アメリカのガイドライン(チェルノブイリ事故のケーススタディによるもの)――30ミリシーベルトが予想されるときは50マイル(80㌔)以遠に避難させねばならない。…日本にはまだ明確なルールもないし、ポリシーもない。だから疑心暗鬼になる人が出てくる。(※大前の夫人は米国人だが、米国大使館からヨウ素剤が送られてきたという。そこまでやっている!)
・今回の災害で日本に誇れるものがあるとすれば、津波というもののリアルな姿をカメラが鮮明にとらえたことだろう。…インド洋スマトラ島沖大津波(2004年)では、素人の観光客が撮ったようなものでしかなかった。…今回は初めてビデオで、空からも陸からも津波の実態が映し出された。ああいう映像を人類は見たことがなかった。
この凄い貴重な記録を将来生かさなくてはいけない。
(※いま読んでいる本『地震と原発 今からの危機』扶桑社 の中で、片田群馬大教授は、子どもが怖がりPTSDになるからと、津波の映像を子どもに見せるな、という意見もあるが、今回の震災を風化させないためには、つまり災害に対処できる知恵をその地に根づかせるためにも(災害は忘れた頃にやってくる。忘却が災害を大きくする)、各地域でこれを子どもたちに見せ続けることが重要だ…と述べている。「相手は自然ですからそんなに甘くないですよ。PTSDであろうが、何であろうが、いつか災害は必ず起こり、その土地の全員を襲うんです。それをPTSDになるからといって包み隠してしまうことは、自然に対峙して生きていく人間として、おかしいんじゃないでしょうか。」ちなみに、この片田敏孝先生は、防災学の専門家として釜石市防災・危機管理アドバイザーとして、釜石市の子どもたちの防災教育に8年前から取り組んできた。その結果、釜石全体の小学生約2000人、中学生1000人、その他保育園児、このほぼ全員が無事だった。この様子はテレビでも紹介されていた。今回の災害で他の自治体の小学生が大多数、先生の引率のもとで犠牲になってしまった事例があったが、このケースに片田先生の指導内容をシミュレーションしてみると、ほとんど助かったことになる。)
・事故の原因が少しずつ明らかになってきた。原子炉そのもののトラブルの前に、まず地震で外部電源施設が大きなダメージを受けている。ex.高圧線についている絶縁器具(碍子)は地震にあまり強くない。建屋内部のモーター、ポンプや配管の一部が壊れている。
(※ということは、東電は、事故原因を「想定外の大きな津波」と強調しているが、津波だけでなくその前の地震ですでにかなりダメージを受けていた…ということか?)
・原発を複数、同じ場所に設置するのは、ひとえに住民対策、それに効率もいい。ex.制御室一個で複数の原子炉の面倒をみられる。住民には、もう一基いかがですか、何でもつくりますよ、と持ちかける。…東電も国も、複数の原子炉を同一敷地内に置くことの危うさをどこまで認識していたのだろうか。
・住民対策といえば、中間貯蔵施設の問題もある。建屋の中に使用済み核燃料のための巨大な冷却プールがあるのは日本独特の光景。…じつはほかに使用済み燃料の置き場がないから。むつ小川原(青森県)の施設の建設が大幅に遅れていて、これができるまでは発電所施設の中に仮置きするしかない。…これは仮設のものだから、ほんの簡易な作りで、停止中の4号機で水素爆発が起きたのもそのせいかもしれない。…日本が本当にポリシーを持った国であれば、中間貯蔵施設ができるまでは原子炉を止めていたことだろうが。
・複数炉の同時進行事故であったことも災いした。これは人手も機器も到底足りっこない。被爆を避けるためには極めて短時間しか作業できないし、スペース不足も問題。
(※いま三ヶ月が経過して、いよいよこの問題が白日の下に晒されている…)
・東電の機能不全……現場を熟知した原子炉の専門家がトップにいない。炉で何が起きているのか、などの詳細な説明ができない。人材がいないための機能不全、司令塔不在。(※専門家といえる最高位の人間は、あの福島第一原発の吉田所長らしい。保安院も同様で、いつもテレビで説明しているあの担当官は文科系の事務官らしい!)
・原子力安全委員会も、独立機関であるはずなのに、今回、保安院の陰に隠れて存在感なし。
・真打が保安院。たらい回しの天下り組織、お飾り組織。昨日の段階になってもレベル5と言っている素人さ。これが日本の原子力行政のお目付け役だから、背筋が寒くなってくる。
・テレビに登場するエキスパートとやら……原子炉の理論は教えていても、プラントを設計したこともないだろう。しかもその多くは東電や関電がスポンサーで研究開発費をもらっていたりするので、東電と政府が発表する以上のことは言えない。専門家としての意見よりも、解説に回る方が無難、と心得ている御仁ばかり(※NHKによく出ていた東大大学院の教授もまさにそんな感じだった…)。NHKなどの解説委員も、ネットで調べてきたような説明を繰り返している…。

◎今後のステップ

①非常手段で注水・冷却……数日間
②安定した手段で注水・冷却……3~5年間
③建屋全体をテントのようなもので覆う……3ヵ月後
④クレーンなどの修復/設置……5年後までに
⑤格納容器・カバー・圧力容器を外し炉心から燃料搬出(※すでに燃料はメルトダウン?)  
…燃料搬出が困難な場合、燃料を中に残したまま、格納容器ごとコンクリートで半永久的に固めるしかない。もちろん周辺の建屋や配管の開口部、トレンチなども密閉する。
⑥冷却プールから燃料の搬出・海路むつ小川原へ(数千本)…第一期工事では容量が足りない?
⑦核分裂物質の除去(できるだけ)
⑧コンクリートで永久封印……6年後?(放射能と崩壊熱のレベルによっては数年早まる)
⑨汚染地域の縮小後、半永久的に立入禁止区域とする(どのくらいの範囲になるかは今のところ不明)。

※破損した燃料棒やら、使用済み核燃料やら、水素爆発等で飛び散った放射性物質…コンクリでチェルノブイリのように封じ込めても、染み出してきて、周囲の環境を汚染する(チェルノブイリの石棺とよばれるコンクリート封鎖でも、もう一度やり直しという局面を迎えている)。要するにこれらの「高濃度放射性廃棄物」と呼ばれる物質は、運び出して、核燃料処理サイクルの中に入れなくてはならない。
・じつはフクシマ原発の問題は、すべての国にとって内政問題。…いまいちばん頭にきているのはオバマ大統領。彼の中心的なポリシーはクリーンエネルギー。そのためには原子炉建設を再開すると宣言していた矢先に、今回の事故が起きてしまった。

○計画停電の愚

・東電(政府も)はコンピュータで動く現代社会をまったく理解していない。(※これはまったく同感。図書館でいえば、毎日日替わりで3時間停電させられたら業務は大混乱する。病院はもちろん、他の事業所や会社、お店も同様だろう…)
・重要なのは節電よりも電力使用の集中を排除すること。→ ピーク時の電力量をカットできる三つの案

①サマータイムの導入。それが嫌ならフレックスタイムを採用。
②週五日間を選択制で操業(休業を平日にずらす)。
③夏の甲子園の中止。(その時期が一年で最も電力消費量が多いらしい)

・大口消費の工場なども含めて、節電に導くような電気料金の見直し。
・東西グリッドの完全接続
・電力警報システム……電力の余裕が10%を切った時に、テレビや携帯電話で一斉に警報を出して、不要な電力を一斉にカットするようにお願いする。そして5%を切ったときには、テレビの放送を中止する。(※これは無理?)…いま日本は経済成長をしていないから、原子炉を新たに作っていく必要はない。今あるものを大切にして、個人個人が5%、10%と削っていけば問題は解決する。

○新しい東北のビジョン

①「復旧」(単に元に戻す)をしてはいけない。→ 21世紀らしい、日本らしい安全、安心のコミュニティをつくる。誰もが誇れる「新しい東北」を建設するのがもっとも望ましい選択肢。
(※言うは易く行うは難し。総論賛成各論反対が噴出?)
→ 津波が襲った低地は緑地と公共の建物だけにして、高台に新しい住宅コミュニティをつくる(※菅は復興ビジョンをここから借用?)。一定の地域ごとに統合された漁港にし、オランダのような水門付き大防波堤を建設する。
・収入の裏打ちのない巨額の赤字国債を発行してはいけない。借金漬けの日本は今でもぎりぎりの状態。→ 国債の格付けが下がり、一気に国債の暴落が起こる危険性。→ ハイパーインフレ、預金封鎖といった事態が続くことが予想される。
……国債を発行するにしても、復興の財源に初速をつけるスターターとして、消費税上げを提案。

○消費税上げで日本は元気になる

・期間限定・目的限定の被災地救済消費税……産業インフラの構築も含めて最大2%(1年4兆円)→ 半分の2兆円を東北地方の住民に、残る半分を公共産業インフラの復興に。もし足りなければ2%を2年(8兆円)にしてもいい。ただし、日本を復興するためという目的は、絶対にはずしてはならない。…「飲んで食べて大いに使って7%、そうして東北地方を復興しましょう」…それで東北地方が復興するのであれば、国民に連帯感も生まれ、元気も出る、景気もよくなる。そういうムードを作ることこそ、リーダーの役割ではないか。
(※そんなに簡単にはいかない…そういうリーダーも見当たらないし…。でも、それでは何も始まらないし…)

(3章)日本復興計画

○今回は千年に一度の大地震、かつて文明国を襲ったことのないような津波…まったくデータがない世界が現出してしまった。

・津波と地震と原子炉という三つの組み合わせの存在し得る場所…世界中で日本とカリフォルニアしかない。…ドイツやフランスには地震がないし、アメリカの東海岸も同様。→ 日本政府は世界に向かって、「今回の問題は日本独自の事情で起きたことであって、あなたの国では従来どおりの原発政策を推進して大丈夫ですよ」と発信すべき。
(※今日の報道では、原発の賛否を問うイタリアの国民投票で、9割が反対…。)

○今(3/27時点)わかっている重要なこと

①これまで原子炉の安全の基本であった確率論が通用しなかったこと。
(※現に事故が起きてしまったという絶対的事実。まだまだ人智の及ばない自然…)
②原子炉の関係者が住民を説得する際に使ってきた、絶対的安全性を担保する論理(ex.格納容器神話)に飛躍があると気づいたこと。
→ 原子炉関係者が反省しなくてはいけないのは、その論拠としていたものが実は間違っていたのだ、という点。(ex.電源がなくなると何もできないシステムだった…)
・ウラン酸化物(燃料)が圧力容器の底に溜まると、再臨界(核暴走)となる惧れが出てくる。燃料は丸い形に集まると臨界形状となりやすく、暴走しやすい性質を持っているから。中性子のふるまいは、球状の場合が最も効率よく、活発になる。そうなると、これは誰も想定しない悪夢の世界に突入してしまう。
(※確か今の状況も、燃料がメルトダウンして、圧力容器の底に溜まっているのではなかったか…そして、かろうじて水がかかって冷却を維持している……つまり、まだ再臨界(核暴走)の危険性あり?!)
・今回の福島第一に欠けていたのは「現場の知恵」…みんな知的怠慢だったというしかない。
(※人災だったということか)

○あまりに危険な「石棺」計画

・チェルノブイリの場合は、炉心そのものが破裂して核廃棄物を世界中に撒き散らしたので、コンクリートで覆ってしまう(石棺)しかなかった。→ あれから25年、コンクリートは熱に弱いので、ボロボロになり、いま一度封印のやり直しが必要になっている。
※日米欧の原子炉の場合、高濃度放射性廃棄物を永久処理する場合、地下800~1000メートルの深さに埋めるというのがコンセンサスになっているが、日本の場合、かつてコンクリ詰めにして日本海溝(一万m)に沈める案は、環境論者や原子炉反対運動家に拒否され、地下800メートルも不十分とされた。…これでは10メートル程度の石棺が受け入れられるわけがないし、私だって断固反対する。
・日本は原子炉を作り、燃やすことはやってきたが、使用済み燃料の処理はともかく、保管する場所さえないことが今回露呈した。→ 日ロ平和条約を結び、シベリアのツンドラ地帯に核廃棄物を埋設させてもらうことを、政府に提案している。
(※これまた難題が増えた!)
・福島原発の処理……半径5キロは、チェルノブイリと同じく、われわれが生きている限りは(何年?)、完全な立入禁止区域(緑地)になるだろう。ロシアが受け入れてくれない場合は、そこに深い穴を掘り、核廃棄物を埋めることも視野に入れておく必要。
(※結局これがいちばん現実的か…もちろん反対も噴出するだろうが…)

○東北復興

・実は今の東北は、日本の「最後の工業地帯」。東京、大阪、名古屋の工業地帯が衰微して、郊外から東北へと工業の拠点が移って行った。特に自動車、電気関係の基幹部品。東北で競争力を失うと、今度は東南アジア、中国に行く。→ 漁港の復興とともに、東北地域の工業力の再生を念頭におくことが重要であり、住居の再生だけでは食べていけなくなると知っておいたほうがいい。
(※最近この要旨とほとんど同じねらいの特番をNHKでやっていた。この論の影響かもしれない。)
・農業の今後……はっきりいって日本の農業は復興しない。
「第三次農地解放のすすめ」…人間の食べ物を維持していくためには、世界の農業最適地で農場経営をする、日本人が出かけていって現地の農民と一緒にやる、こういうやり方で最適地からの輸入にすべき。
(※これも最近テレビで、東北出身の人が単身アフリカに行って、現地の人と一緒にカカオ(?)を栽培して成功していた。これもこの論の影響?)
…日本の農業は、すでに農民の平均年齢が65.8歳にもなっていて、その8割以上が兼業(利権)農家。…若い人や株式会社の参入をはかっても、その程度では農業の再生は無理。だから、食糧安保論者の食糧自給は成り立たない。→ 自給率を上げたいなら、世界の最適地に出かけて行って資本を投下し、現地と長期契約を結んで日本に逆輸入する。その場合にその半分の数値を自給率として算入すればいい。…世界の農業最適地というのは5,6ヵ所ある。そこに分散して投資すれば、リスクが分散され、真の食糧安保となる。…工業国家日本にとっては油も鉄鉱石も石炭も、それらが入ってこなくなるリスクと同じ。農業だけ自給率の殻に閉じ籠っていなければならない理由はどこにもない。
(※以前吉本さんも、「国家を開く」という観点からだったと思うが、農業の自由化には基本的に賛成していた。ただ、あえて言えば、食の問題は生命としての人間という基本・根幹に関わるものだから、という側面もあるので、他の問題とベタには同列にできないのではないか…)

○計画停電の愚・その2

・いかに東電が顧客の気持ちを理解していないかの表われであり、菅総理は最後まで拒否すべきだった。→ 経済への悪影響が大きすぎる。
・一日に2,3時間、順番で電気を停める…その目的がはっきりしない。停電の目的はピークの需要を下げることであって、電気量全体を節約させることではない。ex.夜はピークを下回っているのに(夜のコンサートをやめる等)節電しても何の意味もない。…日本のコンピュータや半導体関係、精密機械工業などは破壊される。
・飲食産業も直撃…日本中が自粛ムード。これではいかに消費税をアップしても効果は半減する。

○東電は配電会社に

・おそらく東電は一度は潰れるだろう。民間企業としての電力会社はもはや成り立たない。原子力発電のリスクは民間企業では負えない。もし原発を続けるのであれば、国そのものが原子力行政の一環としてやるしかない。そして今ある電力会社は公営原子力公社から買電する。民間や外資の発電事業への参入は自由化すべき。高圧の送電は別の国策会社(公社)が一括して引き受け、東西グリッドの接続も行う。
・原子力安全委員会と保安院を統合し、アメリカのように原子力推進機関からは独立する形にして、安全に対するチェック機能を強化する。
・原子力に代わるシステム……日本の原子力産業は終わった。しかし、自然循環型エネルギーも省エネ型の工業団地でも、スマートグリッド(次世代送電網)でも、日本は世界に比べて出遅れている。

○日本はなぜ、これほど熱心に原子力発電を国策として推進してきたのか

①石油依存、OPEC依存から脱却したい……国の原発推進政策を後押ししているのは、原子炉メーカーなどの業界と経産省。
(※産官学の複合体…医療と一緒の構図…これにメディアも加えて、産官学報の複合体と言う人もある。)
…東電にも3分の理はある。行政や住民への接待漬け(※メディアにも?)を伴なう説得の仕事はすべて押し付けられてきた。
②ウラの国策……プルトニウムを抱えていれば、90日で原爆は作れる。だから、国内に使用済みのプルトニウムを貯蔵して持っておくこと自体が日本の抑止力になり、安全保障になるという理屈。日本は唯一の被爆国として非核三原則を掲げているが、それに抵触しないで核武装の能力だけは備えておく。
(※特に国家主義的な政治家などには、このウラの国策は大きな動機づけになっているのだろう)

○所得が減ったのは日本だけ!

・この20年間の国民全体の家計所得が正味で減った(12%減)のは、先進国では日本だけ。…貯蓄率でもアメリカに抜かれている。→ 「一億総中流」が「一億総下流」に → 消費の落ち込み

○日本復興計画の二本の柱

①地域の繁栄をもたらすための道州制(道州連邦国家)
・まずは変人の首長を押し立てて、日本に五つか六つの「都」を作る。大阪都、中京都、新潟都、福岡都、神奈川都…。→ 道州制のそれぞれの地域ブロックに舵を切ってもらい、その連合体で日本を導いて行くしかない。
(※それを大阪の橋下や名古屋の河村たちの「変人首長」に託したい、というのだが…内田樹や高橋源一郎などは、彼らの「変人振り」にはかなり批判的だが…)
(具体的な方策については省略)
②日本人のメンタリティの変革
・日本人は20年間もの間、下降曲線をまっしぐら、という自覚がない。成長神話の頃のパラダイムを今日まで引きずっている。…いまだに持ち家熱、クルマ熱、教育熱という三大熱病。
(※あまり深くない内容なので、以下略)
(大前的楽観論?)

・原発に関しては、「現場の知恵」を盛り込んだ改善策の策定はそれほど難しいことではない。
・日本の復興についても、変人首長に託しながらも、結局は個々人が自立する、という意識改革があれば可能だ。
・(日本の政府は完全にメルトダウンしたかのようだが)政府のやることは、細かいことではない。東北地方の将来に関して大きなビジョンを示すことだ。また、自ら変革したいと望む首長や個人の邪魔になっている税制や業界の悪しき伝統を思い切って断ち切ること、これに尽きるのではないか。
(※最後の方はやや腰砕け…の感があるが、それでも特に原発問題を中心にして、現時点の状況として押さえておきたい事柄は、おおよそのところでは得られたのではないか。その意味では、大前が本書の目的としたことはおおむね達成されていることになる。ちなみに、本書の印税は全額放棄し、売り上げの12%(137円/冊)が震災復興に使われるとのこと。)

                             (6/14 了)
                                      

 今回はまず、震災後三ヵ月の時点での状況論(前半戦)ということで、取り急ぎまとめてみました。次回は、中沢新一などを素材にして本質論(哲学、思想論)を考えています。
 
 

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