2014年7月30日水曜日

『野菜が壊れる』 新留勝行

(震災レポート27) 震災レポート・拡張編(7)―[農業論 ④]



                              中島暁夫


 これまで3回にわたって農業問題を取り上げてきたが、ここで化学肥料や農薬などについて、別の視点からの論を紹介しておきたい。今回取り上げる著作は、震災以前に書かれたものだが、現在でも、チェックしておくだけの内容を持っていると思われる。
                                        

 
『野菜が壊れる』 新留勝行(集英社新書)2008.11.19
                                         


〔著者(にいどめ)は、1943年鹿児島県生まれ。農業研究者。62年、鹿児島県立拓殖講習所に入所、農業研修生としてアメリカへ派遣される。66年久保田鉄工入社、農業機械の技術及び営業企画を担当する。93年、株式会社ジェム設立。農協、生産者、流通業、消費者などを対象とした講演多数。〕

【はしがき】

・相次ぐ食品の偽装表示、残留農薬基準の違反、化学肥料の多用による土や水の汚染、BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザなど家畜に発生する病気...。食品にかかわるこれらの事件・事故に不安は募るばかりで、解決への道は遠いように思える。
・野菜、果物、穀物、そして肉や卵、乳製品に、異変が起こっている。本来含まれているはずの栄養素は激減し、人体に有害だと思われる物質が含まれている。一見、かたちは保っていても、中身は壊れているかのような農畜産物が、そのまま、あるいは加工されて、日々、私たちの食卓にのぼっている。
・農業は、自然の営みの一部をまねて、土からの恵みをもらうもの。...自然界には自然界のルールがあり、仕組みがある。そこでは、微生物などの目に見えない生き物から、大きな動物までがつながり、それぞれの役割をもって生きて死んでいく。...人間もまたそうした自然の連鎖(※「動的平衡」)の中にあるのだから、ある程度まではそのルールに沿っていかなければ、仕組み全体が壊れてしまう。...しかし、その「ある程度」を大幅に超えて、ルールを破ることによって損なわれる部分を石油化学物質で補い、さらに破壊をすすめているのが、戦後から現在に至る一般的な農業だったといえる。→ こうした状況の中では、農産物が壊れるのも、相次ぐ食品の偽装表示や事故も、起こるべくして起こった必然の結果ともいえる。
・本書は、いま、野菜をはじめとする私たちの食べ物にいったい何が起こっているのか、それはなぜなのかを、植物の生態や時代状況などの複合的な背景に照らしながら解説したもの。...第1
章は、壊れた野菜の現状について。2章では、本来の植物の養分吸収や成長の仕組みと、石油化学物質がそのうちの何をどう壊しているのか。3章では、元凶となった化学肥料がどのようにして安く大量に普及することになったのか(そこには政治判断や産業界の様々な思惑が絡んでいる)。4章では、野菜や穀物が壊れたことで、家畜たちが、また加工食品が連鎖的に壊れていく過程。そして5章では、こうした方向を転換するためには何が必要か...なるべく具体的に筆者の考えを述べた。
〔※なお、以下の本文については枚数の関係で、引用は必要最小限の要点だけにとどめた。関心のある方は、是非原著を参照されたい。〕



【1章】野菜が壊れていく


○栄養のなくなった野菜たち


・野菜には本来、苦みはほとんどない。あまり変色したり腐ったりかびたりしない。常温で置きっぱなしにしておいても、しなびていくだけ。水分が抜けるとともに、果物なら空気中の微生物がついて分解(発酵)し、甘みが増して、ドライフルーツになる。一年経っても食べられる。(※これはまさに「奇跡のリンゴ」と同じ...!)
・農薬や化学肥料の影響で、苦み、舌がピリピリ、玉ねぎが目にしみる、変色、腐る、傷む、カビが生える...という症状が出る。(※ここは異論もあり得るか...?)
・有害物質が入り込んでいると、甘みを増してくれるはずの微生物はすみつくことができず、腐敗菌がついて腐る、と推測される。
・牛の「ポックリ病」...硝酸態窒素(硝酸塩)による急性中毒。→ 身体に入ると、亜硝酸態窒素に変わり、ヘモグロビンと結びつく。→ ヘモグロビンが酸素を運べなくなり、酸素欠乏を起こす。...飼料の草に硝酸態窒素が多量に含まれるのは、化学肥料のせいだろう。
・人間の胃は、胃酸によって亜硝酸態窒素の生成が抑制されている。←→ ただし、乳児の胃はまだ胃酸が強くないため、亜硝酸態窒素の生成をほとんど抑制できない。...ex. 60年代に欧米で話題になった「ブルーベビー症候群」...離乳食に使われたほうれん草に含まれた硝酸態窒素が原因だった。〔※西原克成ドクターの育児論(離乳食はなるべく遅らせる)ともリンクする...〕→ 人間の大人の場合、体内で軽い酸素欠乏を起こした場合、ちょっと頭痛やめまいなど身体の不調となって現れる。...それが野菜(の化学肥料)のせいだとは、だれも思わないだろう。(硝酸態窒素とは、「硝酸というかたちになっている窒素」という意味)
・亜硝酸態窒素のもう一つの問題...魚・肉と反応して、ニトロソアミンという発がん性物質を生成。→ 野菜から吸収する硝酸態窒素がいかに多いか...日本には基準値すらない。
・窒素肥料のうち、植物に吸収されずに土に残った窒素成分。→ 河川に流れ、水を汚染。...ex. 茶畑で使われる窒素肥料による汚染。ex. ブラジル...硫酸アンモニウム(窒素肥料)による硝酸態窒素汚染がすすんで、豆が穫れなくなるたびに、アマゾンの奥へ奥へと移動。→ 残留した硫酸分によって酸性度が強まるとアルミニウムが土壌中から溶け出し、それが川に流れ込む。→ その水を、周辺農家の人が飲料水としている。...野菜の硝酸態窒素含有量は、水質基準をはるかに上回る。
・果物を食べて、舌がピリピリするのは、残留しているカリウムの影響。...ex. 腎臓病の人は、カリウム濃度が上がってしまうので、メロンやすいかを食べないように...と言われるが、かつては、それらの果物は「腎臓病によい」と言われていた。まったく逆になってしまった。(※確かに、子どもの頃、「腎臓病にはスイカがよい」と聞いたことがある...)
・カリウムそのものは、海水のにがりなどにも含まれる物質で、動植物にも必須の元素の一つ。ただし、それはあくまで「微量」であって、多ければ有害。→ 内臓に負担をかけ、とくに肝臓に障害を起こす。ex. カリウムの残留している野菜を日常的に食べて、さらにサプリメントとしてとるなど、危険きわまりない。
○輸入野菜の危険性
・残留農薬...中国野菜の75種類から基準値を超える残留農薬。
・病害虫を予防する「燻蒸」処理。...いろいろなガス → 催奇形性や発ガン性。
・輸入カット野菜も、塩素消毒...パックして売られている里芋やれんこん、山菜など。
→ ポストハーベスト農薬がゼロという輸入野菜はほとんどない。
(※これらの状況は、その後改善されてきているのか...?)


○国内産野菜の危険性

・耕地当たりの農薬使用量は、日本は世界一。〔「農薬」とは、除草剤、殺虫剤、殺鼠剤、防黴剤(カビ防止)、それに植物ホルモンなどの植物成長調整剤を含む。〕←→ それに比べれば、中国などはまだまだ少ないほう...貧しい農家では、農薬や化学肥料を買うことができない。→ 結局、国産品と輸入品のどちらが安全かは、一概にはいえない。(※そういうことか...)
・農家の人も、自分の家で食べるものには農薬を使わないところが圧倒的多数を占める。
・政府も農学者たちも、農薬の必要性と安全性を(そして農薬が農家の負担を減らすこと、付加価値の高い農産物には農薬が欠かせないことを)、農家に説き続けてきた。


○毒でなければ殺せない


・毒でなければ生物を「殺す」ことはできない。→ 毒性が強い化学物質が使われる点では、(どんな農薬も)大差ない。(もともと農薬は、兵器の開発・研究の過程で生まれた...P44)
・種まきの前に「土壌消毒」...土の中の生き物をすべて殺して、いわば殺菌する。→ 虫や病気を完全に除去することはできないし、土壌消毒をしても虫は戻ってくる。→ 農家は、夏の間も繰り返し土壌消毒するが、効果は一週間程度しかない。→ そうしているうちに、いくつかの虫や微生物たちはその農薬に対する耐性をつけ、消毒しても元気に活動できるようになる。......農薬で問題が解決しないことは、関係者にはわかっている。
・厚生労働省の残留農薬検査は信用できない。...その残留基準も適正とはいえない。国民の生活や健康以外に、国内産業の保護や輸出国との駆け引き、政治圧力もありうる(詳細はP46~50)。(※ちなみに、『キレイゴトぬきの農業論』の久松氏は、農薬の安全性の科学的根拠を論じる際に、厚労省のデータや基準に依拠していたようだが、やはりナイーブすぎる...?)


○伸びない有機農産物


・夏、多くの土地で高温多湿になる日本の農業は、戦後、化学肥料・農薬とともに発展してきた。そして圧倒的多数の農家には、病気と虫による被害への恐怖感が植えつけられてきた。―→ 化学肥料と農薬を使いつづけて、農地はもうすっかり荒れている。野菜は壊れつつある。もう限界に近づいている。


【2章】土の中のみごとな連携、それを壊すのは...


○植物も呼吸する


・植物は、太陽の光を受けて光合成をし、栄養をつくる。栄養のもととなるのは、水と二酸化炭素と酸素。...植物を育てる栄養のうち93%はこの三つ。→ 残り7%のうち、3%は窒素、2%はカルシウム、1%がリン。→ 残り1%は、カリウム(0.3%)、マグネシウムのほか様々な微量元素(鉄、マンガン、モリブデンなど最低約25種類)が必要。
・植物は、酸素を吸って二酸化炭素を出す呼吸も同時におこなっている。→ 呼吸は昼も夜も24時間、根でも葉でも続けられる。昼はさかんに光合成をするから、酸素を放出する量のほうが、呼吸をして放出する二酸化炭素より多いが、夜は光合成をしないので、二酸化炭素を放出するだけになる。


○生物の身体に流れる微量の電気


・原子は陽子と電子からなり、電子は陽子の外側を回っている。→ 電子が飛び出してしまうと、物質は陽イオンを帯びている状態(プラスに傾く)になる。→ 逆に電子が一つ多ければ、マイナスに傾いている陰イオンとなっている。...電子が一定方向に流れるとき、「電気が流れた」という。
・人間の身体の中には、微量だが電気が流れている。...細胞の中のミトコンドリア(細胞小器官)がATPというエネルギーのもとをつくる時にも、神経系を情報が伝わる時にも、心臓が身体のすみずみに血液を送り出す時にも、いつも電子はかかわっている。
・人間だけではなく、すべての動植物には、微量の電気が流れている。生きているものはすべて炭素を含む「有機物」。その炭素は、マグネシウムなどと同じように電気を蓄え、電気を伝えることのできる物質。


○豊かな土には「マイナスの腕」がある


・植物が根から栄養分を吸収する際にも、電気はかかわっている。
・土にはたくさんの元素を含む粒子がある(植物の栄養分になるものだけでも60種類以上)。そのうちケイ素と酸素は非常に結びつきやすく、結合したものは「ケイ酸」と呼ばれる。
・ケイ酸はマイナスに傾いていて、鉄、マグネシウム、マンガン、カルシウムなど、陽イオンを持つ様々なミネラル元素(を含む細かい粒子)とくっつく。...陽イオンとつなぎたがる「マイナスの腕」を持っているようなもの。→ この腕の数は、土のPH(ペーハー:水素イオン指数...7.0が中性)によって変わる。だいたい中性(PH7.0~7.2)だといちばん多くなる。
・「マイナスの腕」が多ければ、ケイ酸にくっつくミネラル元素の数は多くなり、この状態のとき、土は触るとふかふかで(※「奇跡のリンゴ」の土!)、1~5ミリくらいの様々な大きさの塊が寄せ集められたような感じ。...農業では「団粒(だんりゅう)構造」とよばれる(P59に図あり)。→ 電気的に結びついているので、雨が降っても乾燥して風が吹いても、容易には崩れない。
・塊の中ではミネラル元素を含む細かい粒子が電気的に結びついて水を保つ。また、様々な大きさの塊だから、隙間があって水を通す。→ 「保水性」と「通気性」という両方の、相反する性質をもつ。...ケイ酸が様々な栄養分をくっつけているためにできている状態だから、ミネラル分も豊富。→ 新たなミネラルもどんどんくっつける(保肥性が高い)。...農業においては最高の土。
・植物は、根の先の細かい根毛を、団子たち(団粒構造)の間へ伸ばす。→ 根の水分の水酸イオン(OH-)で、ケイ酸にくっついている陽イオンのミネラルを引き寄せ、根の中にある水素イオン(H+)とミネラルの陽イオンを交換する(P59に図あり)。...それが植物が根から養分を吸収する仕組み。(※う~ん、ポイントは、ふかふかでミネラル豊富な団粒構造の土...)
・この時、植物を根ごと抜いてみると、根にたくさん土がくっついている。電気的に引き合っているから、振ったくらいではなかなか落ちない。...水は一部、水素イオン(H+)と水酸イオン(OH-)とに分かれて存在。水素イオンの量を表わすのがPH。→ 水素イオンがたくさんあればPHは低く(酸性)、水素イオンが少なければPHは高く(アルカリ性)なる。
(※う~む、文科系としては、なかなか、ついていくのがしんどい...)


○森の中の共生関係が土をつくる


・たくさんの動植物、昆虫、菌類、微生物の共生・循環 → これが、植物が栄養をたっぷり吸収して育つことのできる、森の土の「団粒構造」をつくる。
・農業とは、食糧を安定的に得るために、森の団粒構造の土とその中の共生関係を再現しようとする試み。→ 豊かな土をつくり出すことさえできれば、作物は養分をいっぱいに吸収して豊かに実る。...しかし、農地はある意味で人工の環境。→ そこで、森では絶えず供給される肥料分を、人間が補う必要。(※「奇跡のリンゴ」は、畑の中に「森」をつくってしまった...?)


○天敵に対する防御機能


・硬い樹皮、葉や茎に生える細い毛、微生物が嫌う物質(タンニンやフェノールなど)を放出、エチレンガスの分泌。...ex. 植物ホルモン(刺激素)の一つであるエチレンガスは、物理的に揺れたり何かに触れたりすると放出される。→ 成長を調整する指令を出す。...虫にとっては、「まだ成長の途中。これは食べてはいけない」という合図となる。...ex. 「頭をなでながら育てると植物は強くなる」とか「音楽を聞かせながら育てるとおいしくなる」とかいうのは、振動によって発生するエチレンガスの作用だと考えられる。(※う~ん、これもリンゴの木村さんのエピソードと通底するものがある...)
・一方で、病気になったり、成長や活動が止まると、まわりの生物たちは、いっせいにその植物を壊して自然に返す方向へと動き出す。→ そこでは植物も抵抗しないし、できない。黙って(?)ほかの生物たちのエサとなり、分解されていく。


○微生物たちに支えられた窒素供給


・タンパク質やアミノ酸の生成には、窒素が欠かせない。...生きとし生けるものはすべて、窒素なしには生きられない。
・窒素は大気中の約80%を占める気体だが、動物も植物も、呼吸等によって吸収することはできない。→ この栄養素をつくってくれるのは、空気中の窒素を、液体や固体に「固定」することのできる微生物だけ。...ex. 根粒菌や藍藻(らんそう)など。
・根粒菌...マメ科の植物の根に寄生。→ 空気中の窒素(N)を水素(H)と結合させてアンモニア(NH3)に変える。→ 宿主の植物は、光合成でつくった栄養を根粒菌に提供する代わりに、根粒菌がつくったアンモニアというかたちで窒素をもらい、タンパク質の合成に使う。
・こうした窒素固定作用をもつ微生物が、自然界には100種類以上いて、ほかの生物に窒素を提供している。→ 嫌気性で酸素を嫌うものもたくさんある。...地球にまだ酸素がなかった時代に生まれた生物の名残...最も原始的な生物。
・それらが土中に固定してくれた窒素を、植物が吸収し、その植物を食べることで動物が吸収している。(※食物連鎖...)


○水素イオン濃度で分かれる成長の仕方


・栄養成長...茎を伸ばし葉をつける。
・生殖成長...花や実をつける。
―→ 植物の体内では、土中の水素イオンの量(PH6.8)を境に、それ以上であれば栄養成長、それ以下であれば生殖成長する。(※う~ん、神秘的...)
・朝、日の出とともに、植物は活動を開始。→ 葉では光合成、根は水と養分をたっぷり吸収する。...このとき理想的な土ではPHは7.2程度。→ 体内では葉と茎をつくる栄養成長のためのデンプンがどんどんつくられる。
・養分吸収の際には「イオン交換」...根の内部にあった水素イオンは、陽イオンの養分と交代に根から出て、ケイ酸にくっつく(P59に図)。→ 養分吸収をすればするほど、土中の水素イオン量は増え、土のPHは下がり、酸性になっていく。→ その値がPH6.8を下回ると、今度は生殖成長のためのデンプンがつくられる。→ 下がったPHを戻すのは、土壌微生物の役目。
・朝、土が水分をいっぱいに含んでいる時は、嫌気性微生物が活動。...午後、根が水分を吸収して土が乾いてくると、団粒の間に空気が通り、嫌気性微生物の大部分は死んで、好気性微生物が活動(P69に図あり)。(※う~ん、うまくできている...)
・死んだ微生物の死骸は炭素を含み(電気を蓄える)、陽イオンをもっているので、水素イオン(H+)と交換に、土壌コロイド(土の微粒子)にくっつく。→ コロイドから離れた水素イオン(H+)は蒸発し、ふたたびPHは上がっていく。(※う~ん、難しい...)
・一方、好気性微生物の中には、根粒菌や放線菌(窒素固定作用をもつ)などもいる。→ これらの働きで、夜の間にPHは戻されて、土中の窒素分が増える。→ そして、次の日の朝、植物はまた元気に成長を続ける。(※共生と循環...)
・毎日PHの上がり下がりを繰り返しながら、夏から秋へ向けて、土のPHは少しずつ下がる。収穫に向けて、生殖成長に使うエネルギーと時間がだんだん増えていく。→ そうして、実がふくらみ、糖度がいっぱいまで上がった時、仕事を終えた植物は活動を停止する。と同時に、ほかの生物のエサとなり分解が始まる。(※季節の循環...生と死の循環...)


○根毛を焼ききる化学肥料


・戦後、化学肥料が急速に普及。...有機肥料に比べて、化学肥料は効きが速く、扱いも簡単。即効性があって、花が咲き実をつけるまでの期間が短いのも農家を助けた。...少ない労力で、しかも短期間で収穫できる。そして何より国や農業団体からの強いすすめもあった(※国策)。
・しかし、実は大きな問題があった。...化学肥料栽培は自然のルールを無視し、破壊した上で成り立っている。...石油を利用する化学肥料には、硫酸イオンなど陰イオンをもつ物質が入っている。...ex. 窒素肥料の代表である硫安(硫酸アンモニア)。→ 既述のように根の水分の水酸イオンが土中のミネラルを引き寄せる。...硫酸イオン(SO4 2-)もまた強い陰イオン。

①第1の問題

・硫酸イオンが根の外側の電子と反発して、根毛を焼ききってしまう。→ 化学肥料を使うと、根毛は激減。そして電子が追いやられてプラスに傾いた根へ、硫酸イオンとともにアンモニアのかたちで窒素が容易に入り込む。...硫酸イオンの力技で、強制的に窒素を吸収(侵入)させる。
・電子を失った根は、陽イオンを引きつける電気的な力を失い、土中の陽イオンを吸収できなくなる。...この状態の根は、まるで有害な化学物質から鎧で身を守ろうとするかのように、酸化鉄をまとう(P73に根の比較写真)。実際、鉄があれば硫酸の侵入を防ぐことはできる。けれども、そうすれば養分吸収はさらにできなくなる。(※う~ん、「生物化学」は難しい...)
・野菜が壊れた......姿は同じでも、栄養分が激減したのは以上のようなわけ。→ ほうれん草に鉄分やビタミンが少ないのも、自然のルールからいえば当然。

②第2の問題

・土壌中の生物たちが石油成分にやられてしまうこと。...豊かな土をつくり出していた微生物はもちろん、ミミズもモグラも、多くが逃げ出すか死んでしまう。...その中には窒素固定をしてくれる微生物も含まれている。→ 自然界のシステムは、これらの生物に支えられているのだから、これは最大の問題といっても言い過ぎではないだろう。...農業関係者たちは、土中の生物がいなくなった状態を、「死んだ土」とよぶ。

③第3の問題

・これらの生物がいないと、土は団粒構造にならない。→ 大小の土の粒子は、電気的に引き合うことなくばらばらになり、雨が降れば川に流れ込み、風が吹けば舞い上がる。→ 残るのは大きな粒子だけ。作物をつくることなどできない不毛の地となる。...これが人為的な「砂漠化」の原理の一つ。(※放射能汚染以前に、すでに土は壊れつつあった...)
・雨が降ると川が濁るのは現在ではあたりまえだが、これも化学肥料時代ゆえの表土の流失ともいえる。
・(国連データをもとに)伐採も含めた人為的な要因が砂漠化の87%を占める。ex. 中国の砂漠化...中国全土の18.1%(2007年)。→ 穀物収穫高の減少。
・日本の耕作地も90年代に大幅に減少。→ その後も毎年1%程度の減少。...土が荒れて収穫そのものが減っているために、農業を続けることができなくなっている。→ それが後継者不足や経営難、転用とつながっている。(※日本の場合は、他の要因もあるのでは...?)
・化学肥料が使われはじめてから50年余り、もう土は限界。→ 何も対策を講じなければ、耕作地の減少は急速に進み、人口増加による食糧危機より、化学肥料による食糧危機が先になるのではないか。(※農薬と化学肥料で農産物の収量が維持されている、との論も根強いが...)


○「窒素・リン酸・カリ」という誤り


・化学肥料の窒素ばかりで、ほかの栄養をとることができない作物は、ひょろひょろと伸びる(虚弱体質なのに背だけ伸びた子どものように)。→ 旱魃や冷害などの自然の変化に弱く、台風が来たらすぐに倒れてしまう。
・これをなんとかしようと投入されたのが、「窒素・リン酸・カリ」のうちの「カリ」(塩化カリウム)。→ なんとかがっしりした体格に育つ。...しかし、岩塩からとるので、体格の問題は解決できても、土の塩分濃度が上がってしまう。とくに雨の降らないハウス栽培では深刻。→ 塩分濃度が上がれば、ほとんどの作物が育たなくなる。
・必要な栄養分の量からいえば、「窒素、カルシウム、リン酸」。...それなのに「窒素・リン酸・カリ」という呪文(※単なる呪文だったのか...?)がこんなにも普及したのは、石油由来の窒素肥料の弊害を減らすために、どうしてもカリウムが必要だったから。→ 農業の基本だと言われてきた「窒素・リン酸・カリ」は、化学肥料時代の常識でしかない。(※う~む、日本の「常識」は、こういうのが多すぎる...)
・肥料としてカリウムを与えても、解決できるのは見た目の問題だけで、必要な栄養分を吸収できない根と土の問題は変わらない。そればかりかカリは、植物にも動物にも、微量は必要であっても多量だと害になる物質。→ 硫酸とカリウム...自然に生きる者たちには有害な二つの物質が土を壊している。
○土の下はセメント?
・ほとんどの農家で窒素肥料といっしょに石灰を使う。...酸性雨や、硫安に含まれる硫酸で酸性になった土地のPHを調整するため。
・植物が育つのに理想的なPHは7.2~6.8。→ 土地が酸性に傾き過ぎても、アルカリ性に傾き過ぎても、植物は健康に育たない。...石灰はアルカリ性だから、酸性土壌を中和しようとする。→ 硫安で酸性化した土壌を中和するための使用量は、桁が違う。→ 石灰をまき過ぎると、土はセメントのように硬くなる。...土中の水分と石灰(セメントの原料)が混ざると、セメント化する。
・植物は一日の土のPHの変化によって、「栄養成長」と「生殖成長」とを繰り返す。→ 硫安で酸性に傾いた土では、そのPHにより、自然の状態よりも生殖成長が多くなる。そして、栄養成長をしてしっかりした身体をつくることができないまま、花を咲かせ、実をつける(つけさせられる)。実をつければ、その植物は役割を終えて枯れる。→ 化学肥料栽培では、自然の状態よりもだいぶ寿命は短くなる。...(化学肥料によって焼ききられた)少ない根毛で頑張っても、ここまでで限界、ということ。
・工業製品なら、出荷までの期間が短縮されるのは喜ばれるが、農業が相手にするのは生き物。...収穫できたとしても、その植物はまだ子ども。小さな女の子が初潮を迎え、子どもを産んで亡くなってしまうようなもの。(※喩が少しきついが...)
・窒素肥料をさらに使いつづけて酸性化がすすむと、酸素とケイ素がばらばらに崩れ、栄養分をつなぎ止めていたケイ酸が壊れる。→ もはや作物が育つような環境ではなくなる。


○連作障害は起こらない


・現在の農業では、何年か同じものを同じ場所でつくると、土地が荒れて収穫ができなくなることが知られている(連作障害)。...しかし、これもまた、化学肥料があるがゆえの常識。→ ずばり、連作障害の原因は化学肥料。(※う~ん、言い切っている...)
・土中の生物たちは、本来、すみやすいところを求め、お互いに栄養を渡し合って共生している。→ その植物が育てば、それと共生して栄養を交換しようとするものが寄ってくるはず。その場合、植物にとってもメリットがあるわけだから、土が本来の力をもってさえいれば、連作による増収があってもおかしくない。←→ けれども、化学肥料を使うことで、土中の微生物が減り、酸性化し、塩分濃度が異常に上がるため、作物が順調に成長・収穫できなくなる。とくに雨の降らないビニルハウス内では、化学物質が作物や土に残留するケースが多くなる。...つまり、化学肥料を使うために生じる余計な出費が、農家の経営を圧迫している。
・化学肥料も農薬も使わなければ、連作障害は起きない。...これは筆者の実験でも、それ以外の農場でも数多く実証されている(※う~ん、このことは農業界でどのくらい認知されているのか...?)。→ 化学肥料と農薬さえ使わなければ、本来、農業には、もっともっと可能性がある。(詳細はP84~86)


○化学肥料と農薬による悪循環


・化学肥料を使うと、植物は正常な養分吸収ができなくなる。...窒素ばかりあっても、必要なミネラルがなければ、光合成による成長に必要なデンプンは十分できない。...栄養に偏りのある食事をしているようなもの。→ また、根から吸収して葉に運ばれた硫酸イオンは、葉を焼いてしまう。→ 大根や白菜の葉の茶色の斑点......化学肥料の硫酸イオンで葉が火傷し、細胞が壊れたあと。→ 細胞が壊れたら、その部分には電気が流れない。
・こうして傷ついた植物は、虫たちや菌類からみれば、「死にかけて」いて「食べてもよい」もの。→ (化学肥料を使えば)寄ってくる虫や菌を防ぐ(殺す)ために必然的に農薬が不可欠になる。(※余計な出費がかかる...)
・しかし、虫たちを殺す農薬は、植物自身をも傷める。さらに、農薬を使うと葉をコーティングしている状態になり、植物はエチレンガスを出すこともできない。→ 植物の防御反応は機能せず、闘いの主役は農薬と虫たちになる。→ その闘いでいちばん傷つくのは戦場となる当の植物。...弱れば弱るほど農薬に頼らざるをえなくなり、さらに傷ついていくという悪循環...。(...抗生物質を多用して、本来の抵抗力がなくなり、病気になりやすくなっている人間と似ている。)→ 化学肥料を使うようになって、病害虫にさらに悩まされるようになった。


○実は益虫だった害虫


・害虫の一番手ともいえる線虫を退治するために、農薬メーカーは次々と新しい農薬を開発。→ 紋羽(もんぱ)病という別の病気にかかることが非常に多い。...紋羽菌という微生物によって引き起こされる、薬剤等の対処法がない恐ろしい病気(※いわば農薬の副作用)。
・線虫は、根から出てきた分泌液を養分とし、植物の根と共生して、根を取り巻いて紋羽菌を食っている。一部は根の中に入り込んで、根から侵入してきた紋羽菌をも食べていた。
→ 線虫がいるところでは、植物が紋羽病にかからない。...線虫は害虫ではなく、益虫だった。→ 実際に線虫を殺さずに健康な植物を育ててみればわかること。(※農業界というところは、こういうことの真偽も、まだ決着がついていないのか...?)
・良質な有機肥料で作物を育てても、線虫はもちろんつく。けれども、作物の成長は大きく阻害されない。...線虫に成長を阻害されるのは、植物自身が健康でない時だけ。→ ミミズともモグラとも、そして線虫ともじょうずにつき合っていれば、紋羽病に対抗するだけの方法はちゃんと備わっている。...線虫や紋羽病で絶滅した自然林はない。〔※自然林と(人為的な)畑とは違う、と久松氏は言っていたが...)


○大きく成長した農薬産業


・この30年足らずで(1970~1999年)、化学肥料1.42倍、農薬4.09倍、農業生産財全体1.97倍、全産業平均2.54倍......これは、農薬を使っても問題は永遠に解決しないこと、次々と農薬を使わなければならない(※イタチゴッコ...)農業の現状を示している。


○化学肥料と砒素


・通常砒素は、鉄と結合して砒酸鉄化合物という安定した難溶性物質になっている。→ 土中に残留した硫安等の化学肥料に含まれる硫酸成分と砒酸鉄が出会うと、硫酸イオンが砒素を追い出して、鉄と結合し(鉄を溶かし)、砒素が地下水に溶け込んでしまう場合があるのではないか。...硫酸が「眠っていた」砒素を起こしてしまった。(詳細はP92~94)


○同じ化学記号でも違うかもしれない!


・植物が窒素を吸収する過程...化学肥料にせよ有機肥料にせよ、植物は、アンモニアまたは硝酸のかたちでしか窒素を吸収できない。...硝酸で吸収する植物がほとんど。→ 土中のアンモニアは、土中の微生物・硝酸菌の働きで、硝酸態窒素に変わる。→ 吸収された硝酸態窒素は、根から茎へと移動する途中、ちょうど地表付近で再びアンモニアに変化して、葉に運ばれ吸収される。
・つまり、本来、野菜などから大量に硝酸態窒素が検出されることはあり得ないはずなのに、なぜ検出されるのか。なぜアンモニアになるはずの硝酸態窒素が残るのか。→ 石油から合成され硫酸と結合した窒素と、有機物(生物)の体内を通って分解・合成された窒素は、化学記号は同じでも、実際の働きが違うように見える。→ 本来、タンパク質という栄養にならなければいけないのに、炭素と結合して栄養になれない硝酸態窒素が、化学肥料に含まれる窒素からつくられ、それが硝酸のかたちのまま野菜中に残留している...と考えると納得できる。
・人間は、牛の体内でつくられた牛乳やほうれん草のカルシウムなら吸収して栄養にできるが、石灰岩をいくら砕いて飲んでも身体に取り込むことができない。...植物の場合も、土に石灰をまいても、これを直接吸収するのは難しく、土ごと食べたミミズの糞に含まれるカルシウムだから吸収しやすくなる。...生成過程により、生物には吸収できるものとできないものがあるのだろう(詳細はP94~96)。(※これも仮説か? きわめて興味深い仮説ではあるが...)
・石油からつくっても自然の営みでできても、窒素(N)であり、硝酸態窒素(NO3-)であり、化学記号は同じだが、生物の体内を通るという過程には、化学記号で表せない何かが含まれている...と思われてならない。(※このへんも、まだ未解明ということか...)


【3章】化学肥料はどこから来たか


○化学肥料の普及は国策でもあった


・化学肥料の普及には、国策が大きく影響 → 化学肥料は、戦後日本の高度経済成長を支えた自動車産業や石油化学産業と密接に結びついた存在だったから。......(戦前)化学肥料を中心とする化学工業は、つねに爆薬の製造と結びついていた。...アンモニアを酸化させると、硝酸という火薬のもとができる。ex. 日本窒素肥料株式会社(現在のチッソ株式会社の前身)
・「錆びる」...鉄が空気に触れて酸化する現象。「燃える」...炭素化合物が酸素に電子を奪われて、二酸化炭素と水に変化する反応。→ 酸素は、いろいろな物質から電子を奪う働きをもっている。


○化学肥料を使ってくれないと困る人々


・製鉄の過程で、重油の中から抽出した硫酸アンモニウムで鉄板を洗浄すると、硫酸と酸素が反発して、酸素が鉄に入り込めず、良質な鉄板ができる。→ 鉄板は自動車産業などへ。
・(戦後)この鉄鋼・自動車産業の産業廃棄物(硫酸アンモニウム)が、安い窒素肥料に生まれ変わって、農業で使われた。→ ほかの化学産業にも広がった(ex. 合成繊維の原料用アンモニアは、大量の硫安を生み出す)。
・つまり、農家に化学肥料を使ってもらわなければ困る人々や業界がたくさんあった。→ 日本の戦後の経済発展に、化学肥料がひと役買っていた。(※う~む、戦後日本の重工業化の構造に、化学肥料も組み込まれていたのか...!)
・公害対策...化学工業における脱硫装置や脱窒装置。→ そこで除去された硫酸分もまた、農業に投入される。(※当方の兄は、確か化学工業会社で脱硫装置をつくっていた...)
・(最近)バイオエタノール原料となるとうもろこし栽培にも、世界中で硫安肥料の需要が大幅に増加。(※化学肥料の問題は、単に農業界だけではなく、産業界の思惑も複雑に絡む...!)


○工業の体力不足を農業が補った


・化学肥料の二重価格...国外には安く輸出し(外貨獲得)、国内農家には割高な価格。→ 農業が蓄積した「余剰」で、他の産業の資本がつくられた。
・国民の食を支える農業のあるべき姿を問うことも、化学肥料の危険性を懸念することも脇に置いて、国力の増進(経済成長)のために突き進み、国内の農家は「いつでも言うことを聞く安定市場」として扱われた。(※この国のこの姿勢は、現在も基本的に変わっていない...)
・しかし、「日本の輸出の目玉は、硫安」は、長くは続かなかった。→ 1960年代になると、欧米の企業が化学肥料の分野に進出し、日本の主な輸出先だった東南アジアと中南米に進出。→ 政府の保護政策のもとでのんびり稼いでいた日本企業は、あっさりと逆転されてしまった。


○農協の役割


・国の発展のために「農業を利用する」上で大きな役割を果たした。→ 産業組合の枠を超えて、農家の生活をあらゆる面からバックアップ...「揺りかごから墓場まで」。(※当方の母の葬儀は、確か農協だった。サラリーマン家庭なのに...)
・農林水産省の天下り先となっている全中から一直線に、一軒一軒の農家にまで指示が伝わる。...補償金・補助金の類も農協を通じて農家にわたる。...全国農業協同組合中央会(全中)→ 全国農業協同組合連合会(全農)→ 経済農業協同組合連合会(経済連)→ 地元農家をまとめる各単位農協
・国との密接なつながりもあって、農協には様々な優遇措置。...また食品偽装問題においては、農協は常連(?)。(詳細はP112)
・農家によって構成される協同組合の一種でありながら、農林水産省の出先機関。加入の義務はないのに、ほとんど100%、全国の農家が加入している組織。...世界的にみても珍しい、奇異ともいえる状況。→ 場所によっては新しい動きが出てきているが、それでも数でいえば、旧来型のスタイルや関係が依然として圧倒的多数。(昔からの農村共同体)
・農協指定の肥料・農薬を買わないと、農産物を引き取ってもらえない。買わなければ、「いままでの借金を返せ」と締め出されてしまう...という声も多い。
・農協は、自ら化学肥料の生産に関わっている(ex. 三菱化学などと共同出資して、ヨルダンに肥料会社...)。→ 農家に化学肥料を使ってもらわなければならない立場にある。... 一方で筆者は、農協の役員が自分の畑ではこっそり有機肥料を使っている例に何度となく触れている、とのこと。


○「だれでも簡単、すぐできる」魅力(有機肥料から化学肥料へ)


・良質な有機肥料は、サラサラで香りもよく、食べられる。←→ 人間が食べられない石油由来のものは、植物にも害を及ぼす。
・〔戦前の農業〕...家畜の糞や人糞や落ち葉など、様々な有機質の「原料」が、うまい具合に発酵して良質な堆肥になるよう、各農家は毎年独自の工夫と努力を重ねた。...微生物たちが元気に活動してくれると、家畜糞・人糞を使った堆肥すら食べられるほどになる。→ この堆肥ができれば、作物はしっかりと丈夫に育ち、エチレンガスなどの防御機能も十分に働いて、病害虫に強くなる。...さらにたっぷり光合成をしてデンプンやアミノ酸が豊富だから、糖度が高くおいしくなる。...根がしっかり張っていて抵抗力があるから、旱魃や冷害など天候の変化があっても、被害は最小限に抑えることができる。...職人技
・化学肥料の扱いは、堆肥づくりよりもはるかに簡単。...効果の出るのが速く、「いま効かせたい」と思う時にやればよい。「特別な技術なしに見栄え良くできる」。何より増収につながる。→ そうして、「職人技」は、「だれでも簡単、すぐできる」技術(化学肥料)に変わっていった。...これらの農家の事情が、前述の国策、農協の形態や事情、メーカー・商社の思惑と結びついた。→ そのしっぺ返しを食らったのは、健康な土を失った農家と健康な野菜を失った消費者。(※う~ん、この複雑に絡み合った構造は、なかなか手強い...)


○なぜ有機栽培がたいへんか


①土の問題......化学肥料・農薬を使い続けているところでは、土が弱っている。つまり、土中の微生物が少なくなっている。→ 土中に十分な有効ミネラルがつくられず、栄養不足であったり、化学物質が残留していたりする。⇒ このような土地では、回復に時間が必要。...まず化学肥料は完全にやめて、どうしても必要な場合だけ農薬を使ってしのぐ。その場合でも、予防的には使用せず、病害虫の発生を確認して、人力では対応できないという時だけ使用する。(※やるには相当な覚悟と準備が必要だろう...)
・最近のケースでは、だいたい3年ほどで土の力が回復し、農薬も使わなくてすむようになる(※木村さんのリンゴ畑は、10年かかった...)。→ よい循環が生まれたら、あとは楽に有機栽培ができるはず。

②有機肥料そのものの問題......「有機肥料」として売られている商品の品質には、ピンからキリまである。
・牛糞・鶏糞・豚糞などは、本来、米ぬかやワラなどを加えて、微生物の働きにより自然発酵させる。微生物の活動が活発になると熱をもつ。...摂氏45度くらいが最高の状態で、ひっくり返しながらその状態を保ち、完全に発酵させるとアンモニア臭が消え、サラサラのきれいな堆肥ができる。←→ けれども、現在一般に流通している堆肥は、温度を70度以上に上げて酸素を送り、強制的に発酵状態をつくり出している。→ 植物に有益な窒素分がガス化して抜けてしまい、肥料効果の薄い堆肥ができてしまう。〔次章で詳述...〕
・ひと頃、国の補助金であちこちに堆肥センターがつくられた。戦後は、馬や牛を労働力として使う農家が減って、自前では畜産堆肥がつくれなくなったため。...(説明会での堆肥センター職員の言)「堆肥は低温では腐るので、高温にして、好気性微生物で発酵させる」...つまり、職員は自然発酵の温度のことを知らず、高温発酵をしていた。→ 当然、作物はたいしてうまく育たず、病害虫にも弱くなってしまう。......それにしても、「やっぱり化学肥料にはかなわない」と言って、有機農業を諦めてしまった農家が多かったのは、実に残念なことだった。


【4章】そして動物たちが、食品が壊れた


○価格破壊という暴力


・輸入農産物・加工食品が急増......その大半がアメリカと中国からの輸入。その背景には、ウルグアイラウンドからWTO(世界貿易機関)発足への流れ。...完全にアメリカを中心とする一部の国の主導。→ 利益を得たのは、一部の国と地域だけ。(※TPPも...?)


○少品種大量生産、大規模化は工業化


・アメリカ...農家の大規模化、少品種大量生産の政策 → 大規模農家に補助金 → 食品の価格破壊...「世界でいちばん食品の安い国」......最近の日本は、このアメリカの政策のコピー。
・この政策のもとにある発想は、工業製品でコストを下げる場合と同じもの。...自然やまわりの生き物とともに「持続可能に」生きていくという観点がまったく欠落している。
・農業で人間が相手にしているのは、土や作物、微生物などの生き物。...機械であれば、人間の都合のいいようにつくり替えたり、生産のペースを変えたりできるが、相手が生き物であるということは、相手の活動しやすい環境をつくり、成長や繁殖のペースにこちらが合わせなければ、いずれ破綻するということ。(※「自然をつくり替える」「自然に合わせる」...文明観や宗教観にも関わる、とても大きなテーマ...)
・価格破壊、効率のよい大量生産 → 壊れたのは、野菜だけでなく、動物たちも壊れていった。ex. 牛の「ポックリ病」...現在つくられている牧草は、ほとんどが化学肥料を使った「農産物」。→ 窒素成分が多量に含まれる牧草は、健康を阻害するもの。


○やめられない化学肥料


・化学肥料は、すでに構造的に産業界に組み込まれてしまっていた(※第3章の衝撃的で重いテーマ)。→ 農薬使用などと発想は同じで、「どこまでなら安全か」を考えるようになった。飼料はそのままで、どのように与えたら死なないか、ということ(※う~ん、医療薬も同じ発想か...)。←→ 死なないからといって、健康であるとはいえない。目に見える障害は出てこない、というだけ。...ほとんどの畜産農家が慢性硝酸態窒素中毒に悩まされながら乳牛等を飼育しているのが現状。→ 食欲不振、乳量の減少、不妊症や流産となって現れる。(※これは重要な指摘...当然、人間にも同様の影響があるだろう...)


○牛の「濃厚飼料」


・ほぼ100%輸入。もともと草しか食べない牛の生理には合わないもの。→ 肝機能に大変な負担(脂肪肝)。
・化学物質が含まれたエサを食べた牛は、胃(四つある)で十分な量の微生物を養うことができず、消化も吸収もうまくいかなくなる。→ 下痢、潰瘍などの胃腸障害。(※人間もか...?)
・牧草は化学肥料栽培のためカルシウムをはじめとするミネラルが少なく、代わりに与えられるのは吸収しにくい石の粉(石灰やサンゴ、貝殻などを粉砕してつくるカルシウムの粉)。→ カルシウム不足 → 出産後の起立不能。......カルシウムならなんでもよい、というわけではない。...草の繊維質にあるカルシウム(有機ミネラル)とは違い、炭素結合していない(無機ミネラル)。→ 栄養分としての吸収率が低い。
・乳牛の乳房炎は「人為的」に作られるストレスが誘引。...牛が本来持っている免疫力や体力を最大にするような飼養管理が求められる。
(※以上、家畜と化学肥料・農薬などとの関係の詳細は、P130~142)


○瀕死の牛たち


・昔ながらの自然な方法で飼えば、牛は15~20年生きる。...しかし、現在の牛の平均寿命は4,5年。それも、抗生物質を含む各種薬剤を与え続けなければ病気になってしまう状態で、やっと生かされているのが現実。......いま牛たちの置かれている状況は、動物それぞれのもつ自然な生き方からあまりにもはずれている。それは、豚も、鶏も同じ。
・硫安を使って栽培された牧草を食べ、アメリカなどいくつかの穀物メジャーが圧倒的なシェアを誇る配合飼料で、先進諸国の家畜たちは、病気のような状態で育てられている。...それは、消費者が「安く、速く、たくさん」を求めた結果ともいえる(※う~ん、やはりまた、ここに戻ってくるのか...)。...牛乳は、値段が25年も変わらない「物価の優等生」。→ 農家は借金...。(※卵も同じか...)


○鶏の腸に穴があく


・農場ではなく工場(効率優先)→ 鶏たちに大きなストレス。...ex. イスラエルのヘブライ大学が「毛(羽)のない鶏」を研究。...(効率優先の)「工場」の発想。← やってはいけないことなのではないか、という生理的な強い反発がある(※同感...)。...人間のために、ほかの生物の生態をつくり替えるようなことは極力避けていくべき。...ex. 植物に対しても、人工授粉による品種改良はあってもいいと思うが、遺伝子組み換えにはどうしても賛成できない。(※当方は同感だが、論拠がこれだけでは、「それは感情論にすぎない」と言われそう...?)


○不健康な家畜の堆肥は...


・前章の終わりに、「現在市販されている畜産堆肥は、45度程度の自然発酵でなく、強制的に温度を70度以上に上げているから、有効成分がガス化して抜けてしまい、効果が薄い」と書いた。〔...「抜け堆肥」(肥料分が抜けてしまった堆肥)→ 以下は、その説明...〕
・牛の胃(第四胃)で増殖した微生物は、食べたものといっしょに消化されるが、その生き残りが糞に混ざって排泄される。その中のとくに嫌気性の微生物(乳酸菌類)が糞を食べて分解することが、堆肥づくりでは非常に重要。←→ けれども、現在の一般的な牛の飼育は、化学肥料栽培の牧草、とうもろこし等の穀類、そして化学物質によって搾油されたあとの大豆カス・綿実カスがエサ。→ 胃の中で微生物が十分に繁殖できない。→ 牛は消化不良を起こす → 糞中にいるはずの微生物は少なく、うまく消化・吸収されなかったものが糞として出てくる。→ この糞はなかなか発酵してくれない。発酵のための微生物が繁殖しないので、腐敗菌が入り込み、腐敗していく。→ 甘みのあるにおいをもつサラサラのすぐれた堆肥とは似ても似つかないものができてしまう。→ それで、腐敗菌がつかないようにどんどん酸素を送って高温にして、なんとか発酵状態をつくる。...乳酸菌は嫌気性微生物なので、この時死んでしまうから、その働きは利用できない。
・(堆肥センターの職員の言)「堆肥は低温では腐る」......本来そんなことはないが、いま現在の状況で言うなら、それは事実。→ 牛が不健康であるかぎり、良質な畜産堆肥をつくることは不可能。(※う~ん、ちょっと絶望的...?)
・よい畜産堆肥のためには、健康な家畜が必要。そのためには健康な牧草などの植物が必要。そのためには、健康で豊かな土が必要。...自然は連鎖している。→ どこかを壊せば、別のところもいっしょに壊れてしまう。(P153に、「力のある堆肥をつくるには...」の図有り)

○微生物たちのダイナミックな世界

・地球上のありとあらゆるところにいる微生物。空気や水や土の中。動物や植物の体内。生き方も実にさまざま...。ex. 「乳酸菌」...「乳酸をつくる嫌気性の微生物」の総称で、それぞれ生き方も働きも違う。日本酒を醸造する際に必要なものもあれば、日本酒をまずくしてしまうものもある。
・微生物の活動の総体が自然界を支えている。...微生物自身は、なるべく自分にとって都合のよい、すみやすいところにすみ、エサを食べ、繁殖して子孫を残し死んでいくのみ。→ 宿主が、「微生物がいると助かる」「いてほしい」と思うなら、「していただけるよう」微生物が好む環境を整えなければいけない。


○食品加工の原点


・微生物による分解は、私たちの身体でいえば、「摂食・分解・消化・吸収・排泄」にあたる。その働きのもとは、微生物ももっている酵素。...いわゆる「腐敗」「発酵」も、同じ「分解」。違いは、人間にとって良いか悪いか。
・人間は、長い時間をかけて、自分たちに有用な種類の微生物による分解を探し、「発酵」として区別してきた。→ 腐敗させる微生物と、発酵させる微生物は、微生物界で敵対関係にあることがよくある。...人間を含めた動物は、発酵菌側の共生仲間。(※なるほど...)
・人間は、ある種類の微生物の力を利用すると、食べ物がおいしくなったり、日持ちするようになったり、消化・吸収を助けてくれるようになることを学んできた。→ こうした発酵食品の製造は、食品加工の原点となった。...「加工」といっても、生き物を相手にしているという意味で、工業よりは農業と非常に近い。
・ex. 納豆...大豆のタンパク質を微生物が分解して、アミノ酸が結合したペプチドになる。→ タンパク質は味がないが、それがペプチドになると、いわゆる「旨み」が出てくる。
・発酵食品を食べるということは、私たちの身体の中でおこなわれる分解を、先に微生物がやってくれたものを食べること。→ 消化・吸収がよくなるのも当然のこと。(※なるほど...)
・さらに、口から体内に入った微生物のうち一部は、胃酸や胆汁でも死なずに腸内で増殖し、体内の消化・吸収力や免疫力を高めてくれる。(※これらを扱った関連本は多数...)
・江戸末期...(中国とは異なり)日本人にアヘン中毒が広がらなかったわけ。...調味料や漬け物などのかたちで毎日のように発酵食品を食べていたため、体内でアヘンを無毒化できたのではないか(鹿児島大・原口泉教授の講演より)...(※う~ん、これは初耳だが...)
・けれども、化学物質の登場で、人間と微生物の共生関係は壊れつつある。...石油を使ってつくり上げた現在の社会は、微生物にとってたいへん好ましくない環境。→ そこでは、微生物は働いてくれない。私たちにとって有用な食品をつくってくれない。...見た目はパンであり酒であり納豆だが、製造過程での自然の微生物の関与は大幅に減ってきている。


○腐敗菌はどこへでも入り込む


・ex. パン...小麦粉に天然の酵母をとりつかせる。...パンの酵母菌はたいていどこでも空気中に漂っていて、果物で酵母を誘い増殖させることができる。→ 早ければ2,3日で泡が出てくる。アルコールのにおいがしてきたら、パンを焼くのに使うことができる。→ 小麦粉と塩に、この酵母液を混ぜて練り、寝かせると、酵母が小麦粉をエサとして分解を繰り返し、その過程でガスが出て(微生物たちが活動するとガスが出る)、生地が大きく膨らむ。
・果物には糖分があって、実ができると同時に酵母菌がつきはじめるから、生のままでもパン用に酵母を育てることが可能。...正真正銘の「天然酵母」
・ところが、果物の内部に(※化学肥料や農薬によって?)異変が起こり、発酵のための微生物が減少し、そこに腐敗菌が入り込むようになってしまった。...腐敗菌というのは、ほかの微生物がいないところならほとんどどこへでも入り込んでくる。→ 置いておけばドライフルーツになるはずの果物が「腐る」ようになった。〔※「奇跡のリンゴ」が腐らない理由...いろいろな微生物(発酵菌など)が豊富にいるから、腐敗菌が入ってこられない、ということか...〕
→ また微生物が少ないために発酵する力が弱くなってしまい、本来であれば3~5倍くらいに膨らむはずなのに、弱い発酵しかできない。
・酒や味噌をつくる際には、蒸した米に麹菌が増殖すると、真っ白なカビが増殖して花が咲いたようになる。麹を「糀」と書くことがあるのはこのためだろう。→ しかし、そこに灰色・黒・赤のカビが混ざるようになった。...これは腐敗菌。


○発酵の衰えは気づかれない


・加工食品業界で使われる菌は、天然酵母ではなく工業用イースト(イーストは英語で「酵母」の意味)...とくに発酵力の強い菌を、人工的に純粋培養したもの。...その際に、リン酸や窒素(アンモニア)などの化学物質が添加される。
・自然の酵母は生き物だから、粉の状態や酵母の種類、気候そのほかの環境によって発酵力が変わり、品質にばらつきが出てくる。←→ 天然酵母による発酵のこうした点が、大量生産と効率を求める現在の産業界で、最も嫌われるところ。(※なるほど...)
・また(パンの製造で)発酵の過程でイーストのエサ(イーストフード)にするために、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウムなどの添加物(10数種類)を3~5種類使用。→ パンは少ない材料で、短時間で発酵させられる。→ さらに、イーストフードの組み合わせによって、つくりたい味を自由自在に調整できる。...これがあれば、栽培過程でどんなに化学肥料が使われていても、農薬が多用されていても、生地は難なく、思いのままに膨らむ。...しかし、イーストフード(添加物)の中には、発ガン性が指摘されている物質もある。
・「天然酵母・イースト」との原材料表示......天然酵母を加えてはいるが、実際には工業用イーストの力で発酵。→ 天然酵母は売るための戦略として名前を貸しているようなもので、実際の発酵過程ではほとんど出る幕はない。(※う~ん、そういうことになっていたのか...)


○日本酒の酵母開発競争


・日本酒づくりでは、麹菌と酵母菌という二種類の微生物が関係。...蒸した米に種菌(もやし)という麹の胞子を振りかけて増殖させ → それに酵母を加えて「もと」(酒母)をつくる。...米のデンプン質を麹が分解してブドウ糖にし → ブドウ糖を酵母が食べて、炭酸ガスとアルコールにする。
・空気中から入り込んでくるその他の微生物のうち、乳酸菌は、乳酸をつくり出して環境を酸性にすることで他の雑菌を殺すが、面白いことに酒酵母だけはまったく平気で生き残る。...多くの微生物とちがい乳酸菌は低温で活動できるので、厳密な温度管理のもとで乳酸菌を増殖させ殺菌するとともに、酵母菌の活動を側面から助ける。
・この、麹と酵母、乳酸菌と酵母の連係プレーにより、日本酒は醸造酒の中では異例の高いアルコール度を出すことができる(日本酒の原酒はアルコール度20度前後、ワインは15度程度、ビールは5度程度)。...いわば、微生物についての知恵を結集した発酵食品の傑作といえる。→ 残った酒粕をさらにそのまま置いて発酵させると酢ができる。甘みのある最高の酢。(※これが日本酒のできる仕組みか...)
・江戸時代...「麹衆」とよばれる職人たちが麹菌製造を独占。→ 現在は、大小の種菌メーカーから酒造会社が買う。
・酵母のほうは、たいてい蔵元の蔵のしっくいにすみついている...「蔵つき酵母」。→ 戦後、科学技術の発展により、酵母開発がさかんになった。...麹がつくったブドウ糖の旨みを、いかに100%に近づけてアルコールに変えられるかが、酒づくりのポイントとなるため。
・酒づくりは一年に一度の大仕事...いまここに届いた米で、どんな温度管理で、どのように麹と酵母の分解をつくり出せばよいのか、どこで発酵を止めて酵母による糖の食い残しをつくり、酒の甘みを演出するか、非常に繊細な感性を要求される。→ どのような作柄でも、どのような作り手でも安定して売れる日本酒ができるような「強い菌を」という要望が出たのは、ある意味で自然な成り行きでもあっただろう。←→ しかし結果的に、酵母開発は、化学肥料によって発酵しにくくなっている米の現状を見えにくくすることにもなった。
・発酵が悪くなればなるほど、それに対応できるような強力な酵母が開発された。→ 強いだけでなく短期間でもつくれる酵母に発展(1ヵ月かかっていた酵母による発酵が2週間に)。→ そうなると乳酸菌の増殖が追いつかないので、培養された醸造用の乳酸を加えてつくられるようになった。
・味のほうでは、1980年前後のグルメブーム以降、米の外側を削ってできる日本酒のすっきりした味が流行。...実はこれは、作り手にとってある意味で有難いこと...米全部を使ってつくりたくても、外側ほど化学肥料や農薬の化学物質が残っていて、発酵してくれなくなっていたから。


○発酵していない発酵食品?


・「安く、速く、たくさん」という流れ...一方で、土の中の生態系は崩壊に向かう。→ 化学肥料と農薬による化学物質が野菜・穀物・果物の中に入り込んでいるのは当り前になり、収穫物内の微生物も、収穫後にとりついてくれる微生物も少なくなった。→ ますます強制的に発酵をつくり出さなければならなくなる。→ さらに価格破壊が加わって、その先は、もう何でもありの世界になってしまった。
・市販のパンでは、工業用イーストすら使わないものが登場。→ このパンは、まったく発酵を利用せず、炭酸ガスを使ってただ膨らませただけ。...見た目は似ていても、発酵食品でなくなっていた。→ 微生物による分解なしにつくるそうしたパンは、消化のしやすさ、吸収の仕方や栄養分も違ってくるはずだが、商品名はパン...。


○脱脂大豆の危険


・安売りの味噌の材料...「脱脂加工大豆」(ほとんど外国産)...大豆油を絞ったあとのカス。→ 大豆自体に化学物質が入り込み(農薬・化学肥料)、さらに毒性のある物質(化学溶剤や中和剤)で処理された脱脂加工大豆には、発酵のための微生物がなかなかとりついてくれない代わりに、腐敗菌が入り込んでくる。→ 防腐剤(次亜塩素酸ナトリウム)を入れて、全部まとめて微生物を殺す。→ 腐敗もしないが、発酵もしなくなる。あとは化学調味料と塩を加えて、「味噌」ができ上がり。


○シリコン入りの食用油


・安価な食用油...ヘキサンに抽出された油。→ 酸化防止にシリコンを添加。→ 冷めると固まる...「スーパーの揚げ物は冷めるとまずい」
・シリコン...微細な粒子として血液中に入り、リンパ系や免疫系に損傷を与える可能性。
・マーガリン類...そうしてつくられた植物油を固定化するために、水素添加という化学処理。→ 本来、液体であるはずの植物油が常温でも固形を維持(カビも生えず、虫もつかない)...この構造はプラスチックとほとんど同じ安定構造...「マーガリンは食べるプラスチック」→ 悪玉コレステロールを増やし、ガンや心臓病の原因になるトランス脂肪酸は、その水素添加物の副生物ともいえる。(※植物系がいいと言われて、マーガリンを長く食べてきたが...)


○もう一つの醤油づくり(もはや醤油といえない商品)


・蒸した大豆と炒った小麦を砕いて種麹を加えて麹をつくり、塩水を加え、温かい室(むろ)の中で空気中の微生物をこれにとりつかせてもろみをつくり、一定温度で寝かせて、カスをこして醤油ができ上がる。...このとおりにつくると1~3年ほどかかる。
・安い醤油づくりの別工程(大量に速く生産)...材料は、水・塩・化学調味料・着色料...原料は、ヘキサンで油を絞り取った脱脂加工大豆のタンパク質分。→ この化学調味料があれば、工場のラインに大豆や小麦がなくてもちゃんと醤油の味になる。...「醤油」ではなく「醤油風調味料」として売られるべき(※醤油もどき!)。→ 冷凍食品から菓子まで、スーパーで売られている食品の大半に入っている。......戦後、とくに日本では研究に研究を重ねてすばらしい(?)化学調味料ができた。(※化学調味料にごまかされて「にせもの」を食べている...)


○日本酒でなぜ頭が痛くなるのか


・戦後、酒税確保のために、「にせもの」の日本酒が国の主導でつくられていた。...日本酒に安いアルコールを添加して3倍に薄めた「三倍増醸酒」が1949年に認められている。←→ 本来、日本酒づくりにおけるアルコール添加は、「ここで酵母を殺し、発酵を止めて糖分を残したい」という味の演出の上で行われることなのだが、まったく違う目的で利用された。
・その後、米不足が解消されても、この方法はずっと続けられて、「安く、速く、たくさん」につながってきた。→ 化学的な添加物が登場すると、コスト削減・大量生産してもなお日本酒らしい味に近づけるべく、ブドウ糖、水あめ・粉あめのほか、コハク酸、グルタミン酸ナトリウムなど様々な物質が使われ、味が整えられるようになった。→ 安価な日本酒を飲むと、翌日頭が痛くなったり吐き気がしたりするのは、こうした物質が入っているから。〔※う~ん、若い頃の二日酔いは、安酒(の化学的な添加物)が原因だったのか...?〕
・三倍増醸酒は、2006年の酒税法改正で禁止され、以後は「リキュール」と表示。...それにしても、米不足・資金不足だった戦後の一時期の「窮余の策」のはずが、60年近くも続いたことは、まったく驚き...(※きわめて日本的...)。この60年が、日本酒に与えたダメージは計り知れない。そして、改正後も、米でつくったアルコール以外の割合は、50%まで認められている。(※これも日本的な「骨抜き」「尻抜け」...)



【5章】まだ間に合う、いましかない


○だれも責められない


・ほとんどの人々が、その時点では、よかれと思ってやったか、せざるを得ない状況に追い込まれてやったこと。→ しかし、方向が間違っていたことはもう明らか。ex.「無添加」とうたわれている食品にすら、化学肥料による残留化学物質が含まれていることが多い。
・それでも、まだ間に合う...いまならまだ、修復は可能...。もうぎりぎり、いましかないのではないか。(※う~ん、この切迫感は、神門教授と似た感じ...)


○始まりは土と農作物


・土と農作物...ここを改善していかなければどうにもならない。→ うまくいけば、そこから畜産業へ、加工食品業へと、よい循環を広げていくことができる。...健康な農作物をつくりたいと考える農家が出てきている。
・(愛知での例)...化学肥料をやめ良質の有機肥料を使うことで、みごとに土壌改善に成功。→ ふかふかの土が地表から楽々70センチ下まで続き、毎年同じ場所で、農薬をほとんど使わず、節ごとに2本のきゅうりを、7月まで収穫。(その他の事例...P183)
・「有機栽培は小さくてみすぼらしい」とか「収穫量はどうしても下がる」と言われるが、それはどこかでやり方が間違っているために生まれた誤解。→ 健康な土と良質な有機肥料を使って元気に育ったきゅうりは曲がらない。...いま野菜を貧弱にし、また収穫量を頭打ちにしたり減少させている原因こそ、化学肥料と農薬。
・土壌中の微生物の生理にこちらがちゃんと合わせれば、丸々と太って、甘みも栄養もたっぷりの野菜が、これまで以上に収穫できる。


○大事なことが二つ


①事例のどの農家も、膨大な借金を返し、貯金すらできるようになった。...良質な有機野菜であること、栄養価が高いことを売りにし、そして味があきらかにちがうことが消費者にも認められ、多少の傷がついた品さえ、通常の流通価格より高く出荷できるようになっている。

②農家の人々の気持ち...健康な野菜をつくることで、農家の人々自身が心身ともに健康になり、元気になっていく。...食べた人の健康に間違いなく役に立つという確信は、つくる者としてのプライドを回復させてくれる。それで経済的にも破綻しないとなれば、農業ほど楽しいものはない。(※ここは久松農園の久松氏と重なってくる...)


○化学肥料はやめられる


・微生物の力を借りずに農業を続けることはできない。目に見えないものたちの世界を大事に考えて、環境を整えないかぎり、農業に未来はない。化学肥料をやめ、微生物たちの活動が自然のかたちに戻れば、農薬も必要なくなる。
・畜産農家が自分の牧草地の化学肥料をやめ、輸入穀物主体の濃厚飼料の割合を減らせば、牛たちも健康を回復する。...炭酸カルシウム・リン酸カルシウムでなく、健康な牧草によってつくられる、栄養として吸収できるカルシウムを含んだ牛乳ができる。→ 割高な濃厚飼料が減って、牛たちの健康が回復し、寿命が延びれば、大規模化しなくても採算はとれるはず。
・土づくりには時間が必要で、一朝一夕にはできない。→ 化学肥料で荒れた土壌を改良しようという目的をはっきりさせた補助金が必要。...農業の未来に貢献できるもの、農業の生産そのものに役立つ補助金は、実は非常に少ない。...減反で補助金が入るとなれば、一時は潤っても、「やる気」はそがれるばかり。→ いま、「根本的な観点から農業を救う」ための、健全ではっきりしたビジョンのある補助金が、どうしても必要。
・10数年前は1年でできていた汚染土壌の回復が、いまでは3年かかるようになってきている。...放っておけば事態は悪化するばかり。
〔※昨日テレビで、キャノングローバル戦略研究所とかいうところの山下某が、...農業問題では大規模化して「農業を工業に近づける」ことをしているところが成功している。ところが補助金を欲しい者たちが、「農業は工業とは違う」という理屈をどこかからいろいろ探してくる...という意味のことを弁舌滑らかに語っていた。...新留さん、前途多難のよう...〕


○大規模化は成功しない


・日本は小さな島国...神社や墓もある。長い間続いてきた生活文化をすべて壊したとしても、アメリカや中国のような大規模の農地に太刀打ちできるはずがない。...中途半端な規模では、大規模化は成功しない。→ これまでの大規模化への試みは、ほとんどの農家で失敗(大規模な設備を入れて、大きな借金...)。〔※テレビの成功事例も(大規模化というより)農業法人による細かな工夫の集積だったり、(農業の工業化ではなく)減農薬栽培による高品質化だった...〕
・アメリカですら、大規模化の本当の評価はまだ出ていない。...大規模農場は、結局、穀物メジャー等の要望に応じて、大量生産できる特定の作物の特定の品種を、大量の化学肥料と農薬を使用して栽培。→ 土が近い将来、いうことを聞いてくれなくなるのは目に見えている。
・現在ですら、アメリカでは、1トンのとうもろこしをつくるのに2トンの土が失われている、と言われている。中小の農場が淘汰され、生き残った少数の大規模農場に、ひとたび伝染病や特定の害虫が大発生したらひとたまりもない。
・一方土壌改良においては、小規模な農家にこそメリットがある。やる気を出せば、一年目から効果が出て土が力を回復する。→ 方向転換が大きな利益につながる可能性をもっている。
・海外の農産物に対抗するのに、横に広がる広さで勝負してはいけない。縦で勝負する。→ 土の下にどこまで根を伸ばせるか。それによって実りのレベルをどこまで上げられるか。量でなく質で勝負ということ。


○質で勝負するという戦略


・化学肥料の使用で土が荒れているのは日本だけではない。→ 世界中で健康な農畜産物ができなくなっている。...ex. 欧米の家庭では、「チーズは冷蔵庫に入れて早めに食べないと腐る」のが常識になりつつあるが、本来は発酵はすすむが腐らない。→ 世界に視野を広げれば、安全な野菜、加工農産物を求める市場はけっして小さくはない。...これといった資源もなく、国土も小さい日本が、世界の国々と対抗していくとしたら、「安全な農産物」は大きな切り札になる。(※う~ん、これは説得力ありか...)
・健康な野菜 → 健康な国民...慢性的な病気を減らす。→ 医療費の節約。...医療費に税金を使うなら、健康な野菜をつくるのに使った方がはるかに安上がりで、国の活性化にもつながる。(※日本の医療の問題は、農業問題に勝るとも劣らない...)
・戦後、化学肥料が使われてから約50年で、土地の許容量はもう限界に近づいている。...土地の荒廃はこのあと急速にすすむだろう。→ 構造的な改革が必要。...土壌改良による農産物が市場で高くなってしまうようなら、米や麦、大豆などの基本食材に補助金を出して、消費者のもとには安く届ける方法も有効。(※基本食材には消費税の減免を...)


○「有機」をもっと大事に


・有機肥料をもっときちんとした基準で流通させる必要。...国の予算で良質な有機肥料をつくる工場を建ててほしい。→ 環境が整えば、有機肥料の利用は確実にすすむ。


○「電子」という新たなカギ


・自然の力を取り戻すまでの過渡的な方法として、助けになると思われるのが、「電子」の利用。...石油化学物質は電子を奪う存在。
・植物だけでなく、すべての生物の生には電子がかかわっている。ex. 真核生物がもつミトコンドリア(細胞小器官)は、本来電子を奪う性質をもつ酸素からエネルギーをつくり出すという特異な能力をもった、エネルギー製造工場。...ミトコンドリア内で物質から物質へ電子を渡し合うことによって、生きるためのエネルギーがつくられる。...ここで電子量が少ないとエネルギー生成が酸化に追いつかず、免疫などの機能が下がってしまう。...動物であれ植物であれ、生物としては、電子を奪う物質(石油化学物質)に囲まれ、またそれを口から体内に入れているというのは、非常に困った状態。
・牛に、電子を補給した水と飼料を与えると、肝機能への負担を軽くする傾向。...農産物でも、電子を補給した有機肥料と水で育てると、糖度が増すだけでなく、ビタミンや鉄分の含有量が増すよう。(※ミトコンドリアが活性化され、生きるためのエネルギー生成が増したため、と考えられる...)


○「健康」という節約


・食品を安くするために、いかにたくさんのものを失ったか。...「安さ」の追求は、安全を保てる範囲を大きく超えてしまった。→ 「安い」ということは、ほとんど例外なく安全性と引き換えだと、消費者自身がよくよく認識するべき。(※う~ん、耳が痛い...)
・安さを求めて節約することは、あとで何倍もの医療費となって返ってくる。←→ 良質な食品を食べていれば、それは健康という節約になる。...医療保険や生命保険の代わり。→ 病気になって保険金を手にするより、健康であること。(※確かに...)


○「自分のアンテナをみがく」...すべての基本


・手で触り、目で見て、食べた時の感じをよく感じること。
・数字に振り回されない。...ex. 糖度計...これは濃度計。光の屈折率によって、含有物の濃度が高ければ「糖度が高い」ことになるだけ。→ 食塩水でも砂糖水でも、糖度計の数値は上がる。...数字はつくることができるもの。そもそもその数字がどこから出てきたか、という問題もある(※データの根拠も要チェック)。→ 数字は「自分の感覚を確認するもの」くらいに思っていたほうがいい。(※様々なデジタル化の現代、人間の生物的な「本能力」は減退...)


○目に見えないものたち


・目に見えないものを考えることがなくなった。→ すべての場面で、それが破壊の原因になったとも言えるかもしれない。
・これまでの私たちの解決策は、いまここで目に見える現象をコントロールすることに終始してきた。...科学をもって、どのような現象もコントロールできると思ってしまったところがある。→ その結果、見た目は同じ野菜、牛乳でも、中身は大きく変わったことに注意を払わなかった。...植物や動物が生きていく仕組みは複雑で、私たち人間には計り知れない謎がまだまだたくさん含まれている。→ 「無害」であったはずの技術が、あとになって実は有害であったと分かったことは、これまでにもたくさんあった。→ 「作物が伸びさえすればよい」「虫がついたら殺す」「連作障害が起きたら移動するか土を入れ替える」「酸性になったら中和する」では、問題は解決しない(※対症療法)。目に見える現象の背景には、必ず目に見えない原因がある(※本質論 → 根本治療、原因療法)。
・食品の中身の変化は、消費者にはほとんど知らされなかった。けれども、消費者もまた「安い値段」という目に見えるものの背景にどんなことがあったのか、よく考えようとしなかった。......「目に見えている世界は、世界全体という氷山の、ほんの一角でしかありません。起こっていることの大部分は、私たちの目には見えていないのです。微生物の世界のように。」


【あとがき】


・(著者の)生家は貧農...高校の授業料を、自分でつくった野菜を売って払っていた。
・1994年、ブラジルのサンパウロ近郊で、コーヒー栽培が危機に瀕している、という話。...土壌はPH4.0以下の酸性で、飲み水も汚染されていた。→ その原因は日本...1970年代、日本政府は、移住した日本人の土地を確保する代わりに、無償で化学肥料を提供し、その時以来の化学肥料使用がこの荒廃を招いた。→ (筆者の努力で)数年後、良質の有機肥料によって見事に豊かな土を取り戻した。...この件から、考えることが二つある。

①絶望的に不毛と思われる土地にも、回復の可能性はあるということ。→ 微生物が豊富に含まれた有機肥料を施して数年待つことができれば、回復させることができる。...農薬・化学肥料を使用した農業が一般的になっている今、世界中で土が荒れている。⇒ けれども、もう一度自然の世界のルールや原則を大事にしさえすれば、解決方法はある。

②過去の責任を追及する時間も意味もない。...様々な関係者には、悪意はなかったし、よかれと思ってしたことが、結果的によくない状況を生んでしまった。⇒ 今すぐにも方向を変え、持続可能な農業を回復していかなければ、人間にも地球にも未来がないことはもう明らか。微生物を底辺とした豊かで複雑な地球の生態系は失われてしまうだろう。⇒ 半世紀にわたるやり方を見直し、農家から消費者まで各分野の人々が力を合わせて取り組む必要がある。
...「かつて農業の知恵の中には、植物の体内で、また土や水の中で、目に見えない力が働いていることを感じる力も含まれていました。微生物研究のすすんだ現在でも、微生物相互の働きなどで解明されていることはごくごく一部です。『見えない』『わからないもの』の存在を感じ、その世界に敬意を払うことを忘れてはなりません。人間が『土のことが解明できた』『もう土はいらない』と考えたら、それこそ滅びの始まりになると筆者は考えています。
                          (7/22 了) 
       
 次回は、「農業論」の最後として、「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんを取り上げる予定です。
いよいよ暑さも本番! お身体ご自愛ください。

                        (2014年7月22日)
                

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